ネタバレなしの書評 / 本のあれこれ

詰め込まれたバラエティ豊かな不思議たち。

ご来訪に感謝。

ところで、こんなことを思う時がないだろうか?

  • 口笛を上手に吹きたい。
  • 白雪姫になりたい。
  • 不思議な場所へ行ってみたい。

 

ちょうどよかった。

そんな人にオススメの小説がある。

小川洋子さんの『口笛の上手な白雪姫』だ。

 『口笛の上手な白雪姫』は、現実に限りなく近い非現実に、頼んでもいないのに連れて行ってくれる。

 

あらすじ

「大事にしてやらなくちゃ、赤ん坊は。いくら用心したって、しすぎることはない」。公衆浴場の脱衣場ではたらく小母さんは、身なりに構わず、おまけに不愛想。けれど他の誰にも真似できない多彩な口笛で、赤ん坊には愛された―。表題作をはじめ、偏愛と孤独を友とし生きる人々を描く。一筋の歩みがもたらす奇跡と恩寵が胸を打つ、全8話。(「BOOK」データベースより)

 

『小川洋子』とは...

f:id:s-utage:20210212084914j:plain

1988年 - 揚羽蝶が壊れる時』で海燕新人文学賞を受賞。

1991年 - 妊娠カレンダー』で芥川賞を受賞。

2004年 - 博士の愛した数式』で読売文学賞を受賞、本屋大賞。

2004年 - ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞を受賞。

2006年 - ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞を受賞。

2008年 The Diving Pool』でシャーリイ・ジャクスン賞を受賞。

2012年 - ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。

2020年 - 小箱』で野間文芸賞を受賞。

『口笛の上手な白雪姫』とは...

f:id:s-utage:20210212084909j:plain

 何か引っかかる物語たちに心がかきみだされる短編集。

 

誰なのか、わからない感情。

小川さんの短編集は毎回不思議を読み手に与えてくれる。

家に不思議製造機でもあるかと思うぐらいである。

 

本作もやはり不思議で出来ている。

些細な日常に些細な不思議。

それは大きな波状効果をもたらし、僕にいろんな感情を巻き起こさせる。

 

乳歯、という物語がある。

 

主人公は、なぜだかよく迷子になってしまう。

その果てに、不可思議な体験をする。

それは不謹慎ながらもある種の美しさと心奪われるものがあった。

 

読了後、僕はその物語から中々抜け出せなかった。

語り手や登場人物たちがいつまでも脳内を駆け巡る。

主張したい何かを訴えるデモ行進のように。

 

喜怒哀楽のどれでもない、言いあらわすことのできない感情が、ひょっこりと現れた。

 

誰だ!と激昂しても答えてくれないその感情を、なんとなく大切にしたいなぁ、と思った。

 

 バラエティに富んだ物語。

他の物語に対して、少し異質だなぁ、と感じる物語があった。

仮名の作家、という物語である。

 

作家との恋物語が綴られているのだが、読んでいる最中、僕は言い知れぬ不安に駆られる。

そこにはちょっとした恐れと呆れも加わっていく。

 

けれども、主人公の恋の高揚と繋がり、それらを咥えると物語はキレイに彩られていく不思議。

一分一秒逃さず、この不思議に浸っていたくなる。

それのなんと気持ちのいいことか。

 

終わり方もいいのだが、他の作品に比べると、現実味に頭を小突かれる。

 

小川さんの不思議の幅広さに、感嘆してしまう一作だ。

 

 

ヴェネツィア共和国の劇作家『カルロ・ゴルドーニ』は言った。

f:id:s-utage:20210212084905j:plain

世の中は美しい本だが、それを読むことのできない者にはほとんど役に立たない。

 

美しく不思議な一冊だった。