ご来訪に感謝。
ところで、こんなことを思う時がないだろうか?
- 口笛を上手に吹きたい。
- 白雪姫になりたい。
- 不思議な場所へ行ってみたい。
ちょうどよかった。
そんな人にオススメの小説がある。
小川洋子さんの『口笛の上手な白雪姫』だ。
『口笛の上手な白雪姫』は、現実に限りなく近い非現実に、頼んでもいないのに連れて行ってくれる。
「大事にしてやらなくちゃ、赤ん坊は。いくら用心したって、しすぎることはない」。公衆浴場の脱衣場ではたらく小母さんは、身なりに構わず、おまけに不愛想。けれど他の誰にも真似できない多彩な口笛で、赤ん坊には愛された―。表題作をはじめ、偏愛と孤独を友とし生きる人々を描く。一筋の歩みがもたらす奇跡と恩寵が胸を打つ、全8話。(「BOOK」データベースより)
『小川洋子』とは...
1988年 - 『揚羽蝶が壊れる時』で海燕新人文学賞を受賞。
1991年 - 『妊娠カレンダー』で芥川賞を受賞。
2004年 - 『博士の愛した数式』で読売文学賞を受賞、本屋大賞。
2004年 - 『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞を受賞。
2006年 - 『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞を受賞。
2008年 - 『The Diving Pool』でシャーリイ・ジャクスン賞を受賞。
2012年 - 『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
2020年 - 『小箱』で野間文芸賞を受賞。
『口笛の上手な白雪姫』とは...
何か引っかかる物語たちに心がかきみだされる短編集。
誰なのか、わからない感情。
小川さんの短編集は毎回不思議を読み手に与えてくれる。
家に不思議製造機でもあるかと思うぐらいである。
本作もやはり不思議で出来ている。
些細な日常に些細な不思議。
それは大きな波状効果をもたらし、僕にいろんな感情を巻き起こさせる。
乳歯、という物語がある。
主人公は、なぜだかよく迷子になってしまう。
その果てに、不可思議な体験をする。
それは不謹慎ながらもある種の美しさと心奪われるものがあった。
読了後、僕はその物語から中々抜け出せなかった。
語り手や登場人物たちがいつまでも脳内を駆け巡る。
主張したい何かを訴えるデモ行進のように。
喜怒哀楽のどれでもない、言いあらわすことのできない感情が、ひょっこりと現れた。
誰だ!と激昂しても答えてくれないその感情を、なんとなく大切にしたいなぁ、と思った。
バラエティに富んだ物語。
他の物語に対して、少し異質だなぁ、と感じる物語があった。
仮名の作家、という物語である。
作家との恋物語が綴られているのだが、読んでいる最中、僕は言い知れぬ不安に駆られる。
そこにはちょっとした恐れと呆れも加わっていく。
けれども、主人公の恋の高揚と繋がり、それらを咥えると物語はキレイに彩られていく不思議。
一分一秒逃さず、この不思議に浸っていたくなる。
それのなんと気持ちのいいことか。
終わり方もいいのだが、他の作品に比べると、現実味に頭を小突かれる。
小川さんの不思議の幅広さに、感嘆してしまう一作だ。
ヴェネツィア共和国の劇作家『カルロ・ゴルドーニ』は言った。
世の中は美しい本だが、それを読むことのできない者にはほとんど役に立たない。
美しく不思議な一冊だった。