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ところで、こんなことを思う時がないだろうか?
- 既存のミステリーに飽きた。
- メフィスト賞作品ってどんなのがあるんだろう。
- とんかつが食べたい、しかも六枚。
ちょうどよかった。
そんな人にオススメの小説がある。
蘇部 健一さんの『六枚のとんかつ』だ。
『六枚のとんかつ』は、ミステリの概念を壊し、斬新なとんかつのようなものを食べさせてくれる。
『メフィスト賞』第三回受賞作。大笑いか激怒かっ!?決して読む者の妥協を許さぬ超絶アホバカ・ミステリの決定版、遂に登場!流麗にしてクレバー。この“難問”を自力で解いた時には感動すらおぼえる表題作。思わず“ナルホド”とヒザを打つ『音の気がかり』。“ウゲッ”と絶句する『しおかぜ17号四十九分の壁』他、全15編+αを完全収録。
『蘇部 健一』とは...
1961年生まれ。
1977年 -『六枚のとんかつ』で第三回メフィスト賞を受賞。
ミステリー界の異才、異能作家などといわれ、ミステリー界初の「音の出る推理小説」「飛び出す推理小説」を出版しようとするも却下される。
『六枚のとんかつ』とは...
ユーモアで挑戦的な全15編+αのミステリー小説。
通称『六とんシリーズ』は本作を合わせて4冊刊行されている。
胃薬なんかいらない。
歌でも、絵でも、映画やドラマでも、一度見ただけだと、なんだこれは?という評価になる作品が、たまに出てくる。
決して悪いわけではない、だが、良い、でいいのか?
なんだ、この感情は。
不思議とそういう作品に限って、はまって抜け出せなくなるものである。
本作もそのタイプに部類する小説だ。
『六枚のとんかつ』
タイトルからして、なんだこれは?
不信感から始まった六枚のとんかつの味は、なんとも複雑な味。
変わった味だなぁ、と訝しげに咀嚼していくと、次第に癖になりやめられなくなる。
揚げ物なのに重くない。
ペロリといけた。
胃薬いらずのミステリーだ。
ミステリーのフリースタイル。
本作は一応、推理もののミステリー。
当然ながら、推理には探偵役が必要である。
でないと、事件の謎が解かれないし、そもそも意味が分からない。
美味しいフランス料理のフルコースを作ったシェフがいない、ぐらいに意味が分からない。
一体誰がフルコースを作ったと言うのだ。
なので本作にも探偵役は存在する。
けれど、彼らは決して正しい推理をするとは限らない。
暴走の果てに間違った方向へと進み、オチへと進む。
まるでミステリーを題材にした、落語のようである。
もちろん本格まではいかないにしても、ちゃんと推理をする場合もある。
けれど、筆者はさすがだ。
オチだけは、常に落語っぽい。
いや、これは漫談になるのだろうか。
中々お目にかかれないミステリーのスタイルを作り出した筆者には、感服するしかない。
フランスの哲学者『ミシェル・ド・モンテーニュ』は言った。
われわれの職業の大半は狂言である。そのたずさわる役目が変わるたびに、新たな姿や形をとり、新たな存在に変質する者もある。
ミステリの変質した姿を見た一冊だった。