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ところで、こんなことを思う時がないだろうか?
- 兄妹って素敵だなぁ。
- 父親が嫌いだ。
- いつかパラソルの下で何かを企んでいる。
ちょうどよかった。
そんな人にオススメの小説がある。
森絵都さんの『いつかパラソルの下で』だ。
『いつかパラソルの下で』は、パラソルの下へと、頼んでもいないのに引き摺り込んでくれる。
病的なまでに潔癖で、傍迷惑なほど厳格だった父。四十九日の法要が近づいたこ、私は父の生前の秘密を知ってしまう。大人たちの世界を瑞々しい筆致で綴ったハートウォーミング・ストーリー。(「BOOK」データベースより)
『森絵都』とは…
1968年4月2日生まれ。
1990年 - 『リズム』で第31回講談社児童文学新人賞を受賞。
1991年 - 『リズム』で第2回椋鳩十児童文学賞を受賞。
1995年 - 『宇宙のみなしご』で第33回野間児童文芸新人賞、第42回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞。
1998年 - 『アーモンド入りチョコレートのワルツ』で第20回路傍の石文学賞を受賞。 1998年 - 『つきのふね』で第36回野間児童文芸賞を受賞。
1999年 - 『カラフル』で第46回産経児童出版文化賞を受賞。
2003年 - 『DIVE!!』で第52回小学館児童出版文化賞を受賞。
2006年 - 『風に舞いあがるビニールシート』で第135回直木賞を受賞。
2017年 - 『みかづき』で第12回中央公論文芸賞を受賞。
『いつかパラソルの下で』とは…
ひょんなことから知ってしまった父親の秘密をめぐる物語。
父親の秘密。
親とは偉大であるが、それよりも巨大なものが親のもたらす影響である。
それはおそらくエッフェル塔よりも大きくそびえ立つ。
僕の父は怒りがちの人だった。
怒るために生きているのだろうか、と見紛うほどに怒っていた印象をもっている。
子供の僕は打ち震え、それから怒るのをやめた。
仏と呼ばれてもう30年の月日が経つ。
本作に出てくる3人の兄妹は、厳粛な父親の影響を受けてきた。
作中では既に亡くなっている人物なのだが、兄妹の語りから察するに身震いするほどの厳格さをもっているようだ。
亡くなったからと言って、父親の影響は未だ影を潜めることはない。
拭っても拭いきれないやっかいなものが、ついて回る。
のしかかる影響は3兄妹を父親の隠された秘密へと導いていく。
僕の父がもしもこんな秘密を持っていたとしたら、やはり気になることだろう。
例えその果てにどんな結末が待っていようとも。
切り離せない繋がり。
兄妹というのはいいものである。
どんな苦境に陥っても、いるだけで何となく気が楽になる。
一人っ子の僕が言うのもおかしいのだが、本作を読むと、そんなイメージが強くなった。
世の中にはいろんな兄妹がいる。
そりゃ仲のいい兄妹もいれば、鬼と桃太郎ぐらい仲の悪い兄妹もいることだろう。
けれど、根っこの部分はいつも繋がっている。
同じ場所で、同じ時を過ごしてきた兄妹。
お互い共有できる記憶が状況があるはずだ。
それは他の関係では中々成り立たないものだと思う。
だからこそ揉めたり険悪になったりするのかもしれないが。
3兄妹の根っこの部分はもちろん父親である。
秘密をめぐる冒険は、あれよあれよという間におかしな展開へと向かう。
そしてその先は3兄妹にとって、大事なものが置いてあった。
いや、ひょっとするとそれは3人の近くにずっと置いてあって気づかなかっただけかもしれない。
やっと見つけられたそれを、大切にしていってほしいと思う。
オーストリアの精神分析学者『ジークムント・フロイト』は言った。
いつの日か過去を振り返ったとき、苦心にすごした年月こそが最も美しいことに気づかされるだろう。
振り返った年月が美しいものであるように願う一冊だった。