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ところで、こんなことを思う時がないだろうか?
- 昆虫採集したい。
- ミステリアスな女っていいよね。
- 砂に埋められた過去がある。
ちょうどよかった。
そんな人にオススメの小説がある。
安部 公房さんの『砂の女』だ。
砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める部落の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに、人間存在の象徴的な姿を追求した書き下ろし長編。20数ヶ国語に翻訳された名作。
砂の女
人生には思いがけない落とし穴がある。「あれ、ここ穴だったの?」と気づいた時にはもう遅い。手遅れなのである。
男は砂穴にある一軒家に閉じ込められてしまう。なんでこんなことになったのか、男も僕もわからない。前世の行いが悪かったのかもしれない。
理不尽に閉じ込められた男は当然脱出を目論む。
が、そこは砂が邪魔をしてよじ登る事もできない。家の中にいて風でも砂が入り込み、一晩たてば身体は砂にまみれる。地上にいる村人が邪魔をしてくる。そしてなぜか女がいる。険しい状況とそれなりのカオスが砂穴の中を埋め尽くす。
脱出、脱出と血眼になり計画をたてる男。
砂穴の中にいた女。
逃亡を妨害する村人。
スリリングな展開と砂に囲まれた生活の中、砂とリンクしているかのように描かれた男の心情は、静かに流されていく。
この女は一体?
表題にもなっている砂穴にいた女。男からすれば謎に満ちた女だったことだろう。
なぜここにいるのか。
なぜ男をひきとめるのか。
なぜ何の文句もなく、砂穴の一軒家を守ろうとしているのか。
ミステリアスな女には惹かれてしまうのが男の本能というやつだが、砂の女は得体が知れなさすぎる。危険な匂いがふんぷんと漂っている。砂も漂っているし。
けれど男にとって女の存在は次第に大きなものになっていく。男と女、同じ空間にいて何もないわけがないのだ。
ひょっとすると1番の効果的な妨害作は彼女自身だったのかもしれない。
恐怖の村。
たまたまやってきた人間を、言葉巧みにしめしめと砂穴の中に閉じ込める村。これはホラーではないか。今後、昆虫採集にはまり、その村に行ってしまう可能性もなきにしろあらず。現存しているならぜひ知りたいものだ。
もしかするとバックに巨大な力が働いている可能性もあるが、自分たちの都合で男に強制労働を強いる村人たち。反発していた男もやがて折れてしまう。無念だったことだろう。
男と村人の戦いは意外な決着をみせる。
なんだかいい感じになっているようだが、これが村人の狙っていたことなのだとすれば非人道的だ。後味が悪い。
頼むから、この村滅んでくれないだろうか。