バイオ・テクノロジーによって羽ばたく恐怖。

ご来訪に感謝。
ところで、こんなことを思う時がないだろうか?

 

  • 蚕が好きで好きでたまらない。
  • 将来、バイオ・テクノロジーの技術者になりたい。
  • キレイな絹織物に興味がある。

 

ちょうどよかった。

そんな人にオススメの小説がある。

篠田 節子さんの『絹の変容』だ。

あらすじ

レーザーディスクのように輝く絹織物―。偶然、不思議な糸を吐く野蚕を発見した長谷康貴は、その魅力に憑かれ、バイオ・テクノロジー技術者・有田芳乃の協力で、蚕を繁殖させようとする。事業は成功したように見えたが、意外なパニックがまき起こる…。ミステリータッチの本格SF。第3回小説すばる新人賞受賞作品。

 絹の変容

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些細な間違いというのはよくあることだ。

 

砂糖と塩を間違えて入れてしまったり。

先生を「お母さん」と呼んでしまったり。

結婚している相手を好きになってしまったり。

 

砂糖と塩はどうにか味を調えればいける。

先生を「お母さん」と呼んでしまっても、平然とした顔をしていればいける。

結婚している相手を好きになっても、想いをとどめて置けばいける。

 

間違いは正せるものだ。

だが、初期消火に失敗すると火種はどんどん大きくなり止めることは難しくなる。

 

大きな過ちへと変貌するのだ。

 

長谷康貴は美しさを放出する蚕に魅了された。

やがてそれは多くの人たちに被害を与える悲劇となっていく。

 

彼にはそれを止めようと思えば止められるタイミングが何度かあったが、動き出した歯車は彼の背中をどんどん押し込み、突き進めてしまう。

 

こんなはずではなかった。

どうすればいいのか。

 

長谷康貴の焦燥なんかどうでもいいよ、と言わんばかりに飛び回る蚕たちは圧倒的な脅威で世間を騒がす。

 

怖い。

お母さんの不倫相手が僕の同級生ということが発覚するよりも怖い。

 

虫嫌いのバラッド。

僕は虫が嫌いである。

とくに蝶とか蛾とか蚕とかは最悪である。

奴らが襲ってきた瞬間にフィリピンにでも逃亡する覚悟はできている。


そんな僕にとって本作はホラー作品である。

度重なる蚕の描写には「ぎゃああああ!」と叫んで、取り乱さずにはいられなかった。

蚕が大量発生するぐらいなら、ゴジラが大量発生した方がマシだだ。

 
そんな憎悪の対象とも思える蚕。

次第に不穏な事件や状況が重なり、最終的に蚕は怪物となり人間を恐怖のどん底に突き落とす。

 

見えない不安感が蚕と一緒に羽ばたいていく。

 

当事者は震える。

長谷川康隆が変わった蚕を見つけたばかりに、起きてしまった大惨事。

相当焦ったことだろう。

なんせ主犯なのだ。

 

物語序盤の彼はちっぽけで情けなさもあって僕に似ていた。

ちっぽけさで地球を救えるのなら、何度地球は九死に一生を得ていることだろう。

 

そんな彼も歳を取り立場が変わればしっかりとした責任を持ち始める。

僕はいつ責任を持ち始めるのだろう、不安だ。

 
彼の変化と苦悩は、本作の心臓部分でもある。

ぜひ味わってみてほしい、横に技術者・有田芳乃と蚕を添えて。 


ぎゃああああ!