本と宴





とらわれないものたちの抒情詩。

 
ご来訪に感謝。
ところで、こんなことを思う時がないだろうか?
 

 

  • 子供の頃からスパイになりたい。
  • とらわれたくない。
  • なかなか存在に気づいてもらえない。

 

ちょうどよかった。

そんな人にオススメの小説がある。

柳 広司さんの『ジョーカーゲーム』だ。

 

あらすじ

結城中佐の発案で陸軍内に極秘裏に設立されたスパイ養成学校“D機関”。「死ぬな、殺すな、とらわれるな」。この戒律を若き精鋭達に叩き込み、軍隊組織の信条を真っ向から否定する“D機関”の存在は、当然、猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く結城は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を上げてゆく…。吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞に輝く究極のスパイ・ミステリー。(「BOOK」データベースより)

 

ジョーカーゲーム

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友達の数が飛行機が墜落する確率よりも少ない僕は、自分がスパイ向きであると豪語している。

 

ふと気づけば、強盗にでも入るかのように忍び足。オリンピックを目指しているが如く頑張っているのに、中々表に出てこない恥ずかしがり屋の喜怒哀楽。気配を消す能力などないのに「あれ、いたの?」と言われる確率の高さ

 
ひょっとして両親は僕をスパイとして育てるために、密かな訓練と教育を重ねていたのではないだろうか。だとしたら僕は両親に言いたい。子供で遊ぶのはやめてくれ、と。

 

本作を読んで。

けれど本作を読んで、僕は絶望の淵に立たされる。すぐそこは崖。下は海。サスペンス劇場でよくある追い詰められた犯人のように愕然とする。僕にスパイは無理だ


死ぬな、殺すな、とらわれるな。

 

これはスパイの原則であり、合言葉でもあり、逃れられない呪いでもある。間違えたスパイ像に浸かっていた僕は、当初何を言っているのか理解しがたかったが、読み進める内に少しずつわかってきた。

 

スパイとは。

スパイとは生きる情報源であり、死なずに情報を持ち帰るのが仕事だ。日本は戦争中、玉砕覚悟の精神を持っていたが、それではスパイは務まらない。必ず生きて帰る、という絶対的な覚悟が必要なのだ。死を覚悟で、という気持ちは言語道断である。

 
また、派手なアクションシーンもご法度だ。映画やドラマでスパイのカッコいいアクションシーンが披露される場合があるが、そんなことをすれば目立ってしまうのは明白。せっかくスパイになったのだから、カッコいい所見せておこう、とういう魂胆はいらないのだ。

 

厳しいスパイの世界。

あまりにも厳しいスパイの世界。厳しくするとすぐに拗ねる僕には、到底無理だと思い知らされた。スパイを甘く見ていたのかもしれない。

 

 
厳しい世界だ。
 

 

気持ちを隠して。

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生きているとたまに、こうです!と、郷ひろみのように主張したくなることがないだろうか。納得のいかないことがある時、自分の意思が殺されてしまいそうになる時、味噌汁に茄子を入れられそうになった時。

 

ああ!言っただろう、僕は茄子が嫌いなんだ!

 

叫びたくなる衝動。

そう叫びたくなる衝動を止めるのは、なかなか難しい。人間は感情表現、豊かな生き物。だからこそ人間らしい生き物。

 

けれどスパイは自分の気持ちさえもコントロールしなければいけない。嬉しくても、悲しくても、内側に隠し続けなければいけない。

 

 
例え胸が張り裂けそうになろうとも。
 

 

スパイになりたいから。

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本作で触れたスパイの実像。

 

スパイとはどうあるべきか、どう生きるべきか。

そもそもスパイとはどういう活動をしているのか。

セオリーやルールは存在するのか。

 

厳しくも過酷なスパイという職業の疑問。それを見事解決してくれるのがスパイ養成学校『D機関』だ。結城中佐は険しいスパイへの道を、半人前のスパイたちに叩き込む

 

スパイは厳しく過酷。

けれど、やはりスパイは厳しく過酷で、難しい。誰もがなれる素質や強靭な意思を持っているとは限らない。所属するスパイたちはそれを思い知り、葛藤に苦しむ。無理だ。そう悟る人もいる。

 

結城中佐は。

結城中佐はスパイたちに鋭いけれど、どこか優しさを感じる指導をする。指導…なのかよくわからないが、彼なりの指導だ。

 

スパイというもの、スパイに関わる者へ、真剣に立ち向かうその姿は教官として偉大なる敬意を払わざるを得ない。

 

スパイたちが暗躍。

本作はそんなスパイたちが暗躍する5つの物語で構成されている。スパイの実情と葛藤。それらが秀逸に展開されるミステリーと相まみえる

 

 
スパイになりたい人は参考書としてどうぞ。