精神科医のイメージをぶち壊す。

 
ご来訪に感謝。
ところで、こんなことを思う時がないだろうか?
 

 

  • 精神科医に行こうかと悩んでいる。
  • プール依存症である。
  • 注射するのが好きだ。

 

ちょうどよかった。

そんな人にオススメの小説がある。

奥田 英朗さんの『イン・ザ・プール』だ。

 

あらすじ

「いらっしゃーい」。伊良部総合病院地下にある神経科を訪ねた患者たちは、甲高い声に迎えられる。色白で太ったその精神科医の名は伊良部一郎。そしてそこで待ち受ける前代未聞の体験。プール依存症、陰茎強直症、妄想癖…訪れる人々も変だが、治療する医者のほうがもっと変。こいつは利口か、馬鹿か?名医か、ヤブ医者か。(「BOOK」データベースより)

 

イン・ザ・プール

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運が良いことに、今まで精神科にお世話になったことがない。精神が5歳児の疑惑を払しょくするがために一度行ってみたい気持ちはあるが、漠然とした怖さがあるし、なんとなく敷居が高そうで、未だ行けずじまい。

 

リンリンとならした時。

だが、もしも僕の精神が非常事態の警告をリンリンとならした時、行ってみたいところがある。伊良部総合病院の精神科だ。そこにいる伊良部一郎先生がおかしな人なのだ

 

伊良部先生の奇妙さ。

本作は悩みをもった患者視点から、伊良部先生の奇妙さを描いた快作だ。子供のような言動と奇行、常軌を逸した注射フェチという独特な変態性。

 

それは患者たちを圧倒させるのだが、なぜだか彼らは結果オーライ。落ち着くべきところに落ち着いてしまう

 

ひょっとすると名医なのか。

あれ? ひょっとすると名医なのか。全て計画通りだよ、今までの奇行はわざとだよ、と言わんばかりの言動もあり、実は凄腕の持ち主なのかもしれない。

 

と思ったりもするのだが、彼の奇妙さはその可能性を限りなく0に近づけ、そんなわけない、と調子に乗った足つぼマッサージの先生のように、強めに思ってしまう。

 

幸せそうだ。

だが、患者たちは伊良部先生との出会いを良かったものとして捉えているのではないだろうか。患者たちの治療は成功しているのかどうかよくわからないが、最終的に彼らは幸せそうだ。

 

 
伊良部先生には、現代科学では解明できない魅力がある。
 

 

とんでもないどぎついフェチ。

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注射は痛い。刺された部分が痛いのはもちろん、心のどこかが冷え性を起こして寒がり、全身が痛いような気もしてくる。それぐらい注射は痛くて、嫌いだ。

 

もし突如注射をすることになれば、ネズミ嫌いのドラえもんが突然出現したネズミに対して地球破壊爆弾を出したように、僕もいざとなればポケットから自在に地球破壊爆弾を出すかもしれない。

 

世間で忌み嫌われている注射。

世間で忌み嫌われている注射だが、それに目がない精神科医がいる。もちろん伊良部先生だ。

 

彼は注射フェチ患者たちに適当な理由をつけて注射をしてしまう注射フェチの変態だ。

 

全然アウトだ。

患者たちは意味が分からなかったことであろう。いきなり注射され、それを凝視する精神科医。内角ギリギリの性癖である。僕的には全然アウトだ

 

ところがこのくだり。新しい話がはじまった時点で、楽しみになっている自分がいる。僕は絶対に注射はされたくないが、毎回手を凝らした注射のくだりは癖になってしまう。僕は注射フェチを見るフェチなのかもしれない。

 

 
なんて狭いフェチなんだ。
 

 

笑える伊良部先生。

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精神科医の物語ということで、なんとなく難しく身構えていた自分がいた。そんな自分に言ってあげたい。拍子抜けだよ、と。

 

本作はお豆腐のように柔らかくコミカルに笑える

 

どんなメンタル。

時には深夜のプールに忍び込もうとしてみたり

時には他病院を妬み、塀越しに石を投げつけたり

時には美人の患者にそれなりのガチさをもって迫ってみたり

 

それ犯罪じゃないの? いやいや、そんな倫理観、伊良部先生には通用しない。感情の権化のように彼は動く。どんなメンタルをしているのだろうか。

 

こんな先生。

こんな先生、信用できるだろうか。僕は南米のジャングル育ちで初めて人間の世界にやってきた男の行動ぐらい信用が出きない。

 

なのに嫌悪しきれない不思議な魅力が、彼にはある。世界7不思議に認定されてもおかしくないと思う。

 

そんな彼の物語だからこそ、本作は硬くならずに笑って読むことが出来るのだ。

 

 
精神科医じゃなくても、こんな型破りな人間は見たことがない。