本と宴





愛しているから気持ち悪い。

 
ご来訪に感謝。
ところで、こんなことを思う時がないだろうか?
 

 

  • 人形が好きでたまらない。
  • 愛することは真剣なことだ。
  • 人間なんて嫌いだ。

 

ちょうどよかった。

そんな人にオススメの小説がある。

山下 紘加さんの『ドール』だ。

 

あらすじ

僕はユリカを愛していたんです。愛なんです。先生とか、クラスの連中には、わからない愛。僕は真剣でした。真剣なことを、気持ち悪いなんて言わないで欲しい。時代を超えて蠢く少年の「闇」と「性」への衝動。(「BOOK」データベースより)

 

ドール

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人間と人間以外の愛。それはエンタメの世界において、様々なロマンスを作り出してきた。だが、本作にロマンスはない。ロマンスの神様に「この人でしょうか?」と聞いても「違う!」と阿修羅のような憤怒の表情で返されるだろう。

 

そこにあるのは強めに歪んだ性癖とエゴだ

 

ラブドール。

主人公、吉沢とラブドール、ユリカ。僕には理解しにくいが、そういう愛もあるのだろう。愛は百花繚乱。咲き乱れてなんぼの感情なのだから。

 

愛というのは。

だが、愛というのはお互いを思いやり育まれるものである。主人公、吉沢の愛は一方通行。標識を見落としてしまったのだろう。

 

人形は彼を思いやることはなく、全ては彼の思い込みであり、独りよがりでしかない

 

だからこそ彼は悲しい。身勝手な愛を真剣に貫く姿はとても悲しい。滅茶苦茶急いだのに目の前で電車の扉が閉まってしまうぐらい悲しい。

 

気持ち悪い。

そんな彼の独りよがりの愛は絶妙に気持ち悪い。人によっては受け付けないかもしれない。

 

だが、その気持ち悪さは彼の等身大の気持ちである。遠慮なく吐き出された汚いものは、真っ黒な熱を帯びて、少しだけ光っている。小説とい分野において、それは面白さになる。

 

ドロドロと流れていく彼の汚物のような愛は、果たしてどこへ向かっていくのだろうか。

 

 
気になって夜も眠れない。
  

 

 濁った世界。

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人間は一人では生きられない。誰かに縋り、誰かに寄りかかり生きいくものだ。そうしなければ社会の荒波に潰されてしまうかもしれないし、間違った道へと歩んでいくかもしれない。

 

1人もいなかった。

吉沢にはそんな存在が1人もいなかった。幼少の頃から芽生えた屈折した内面に気づく人も、それを咎める人もいなかった。そもそも吉沢自身が、それを拒絶していた。だから人形に縋ったのだ。

 

わからない。

僕には吉沢がわからない。だからこの小説は面白いし、興味深いのだけれど、僕は吉沢を理解したかった。

 

なのに吉沢は僕からどんどん逃げていく。逃走中ならばハンターから逃げ切り、賞金を手にしていたことだろう。

 

愛してもくれない。

 

たしかに人形は吉沢に危害を加えないし、逆らうこともしない。けれどきっと愛してもくれないだろう。

 

吉沢が今生きている世界は人間まみれの世界なのだ。ここでは人形は生きてなんかいない。人形のように生きている人間もいない

 

彼の闇は深くて溺れそうにもなったが、彼自身は今も溺れたまま違う世界にいるのかもしれない

 

 
その世界はきっと濁っていて、生きずらい世界だ。