本と宴





淡すぎて零れそう。

 
ご来訪に感謝。
ところで、こんなことを思う時がないだろうか?
 

 

  • とにかく無性にパンが食べたい。
  • 淡い物語に浸りたい。
  • 何だか疲れてしまったので柔らかくなりたい。

 

ちょうどよかった。

そんな人にオススメの小説がある。

瀧羽 麻子さんの『うさぎパン』だ。

 

あらすじ

お嬢様学校育ちの優子は、高校生になって同級生の富田君と大好きなパン屋巡りを始める。継母と暮らす優子と両親が離婚した富田君。二人はお互いへの淡い思い、家族への気持ちを深めていく。そんなある日、優子の前に思いがけない女性が現れ…。書き下ろし短編「はちみつ」も加えた、ささやかだけれど眩い青春の日々の物語。(「BOOK」データベースより)

 

うさぎパン

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この世の最強はカバか範馬勇次郎であるという議論が後をたたないが、それよりも最強なのが『かわいい』である。

 

かわいいは人間が生んだ何よりも強い概念。それを打ち破るには並大抵の戦闘力では歯が立たない。筆者はそのことに気づいているのだろうか。それとも無意識で作り出してしまったのだろうか。

 

残らずむしりとる。

何がかわいいのか、というとまずタイトルがかわいいうさぎパン。僕のようなおっさんが口にしたならば、職務質問されるかもしれないようなかわいさと小麦粉でできたパンは、あらゆるものの棘を一つ残らずむしりとる

 

凸凹はいらない。

そして中身。パンといえば中身も大切なキーマン。物語は終始一貫して緩やかに流れ、凸凹のない滑らかな道を歩いていく。小説は本来心の波が両津勘吉の眉毛ぐらい蠢いた方が良いのが定石だが、本作にそんな凸凹はいらない。邪魔になるだけだ。

 
本作は最後まで、ブレずにリズムを守り流れていく。物足りないと感じる人もいるかもしれない。けれど、このテンポだからこそ感じるものがあるのだ。

 
僕はうさぎパンを感じたいし、今すぐ食べたい。

 

 
もちろん耳からね。 

 

淡くて淡くて。

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あわーい。

 
僕がもしもハンバーグにおける師匠だったならば、「ジュ〜」ではなく、こう言っていただろう。「あわーい」と。残念ながら僕はハンバーグ師匠でもないし、ハンバーグに縁もゆかりも無い。

 

もはや近未来。

何が淡いかというと、優子と富田くんである。昨今の高校生の恋愛は進みすぎていてもはや近未来。車は宙に浮き、人はワープ装置を使って移動するような恋愛ばかり。

 
だからこそ今、真っ直ぐな純愛を描いてしまうと嘘臭くなりがちなのだが、本作が纏う空気がそれを自然とやってのけている。

 
富田くんの初々しさは、お嬢様育ちの優子への想いに溢れ、かわいくて、うさぎパンと一緒に食べてしまいたいぐらいだ。

 

優しい世界へと。

けれど、恋は美味しいだけではない。たまには異物も混入されているのだけれど、それすらも淡い。突如ドロドロすることもない展開は、僕を優しい世界へと連れていってくれる。

 
優子の世界は時に不思議なこともあるけれど、柔らかくゆっくりと進んでいく。それは僕が今現在生きてきて、忘れていたリズムだ。

 

 

 それがとても心地いい。