不思議な道具が照らす光。

 
ご来訪に感謝。
ところで、こんなことを思う時がないだろうか?
 

 

  • 藤子・F・不二雄先生は天才。
  • ドラえもんが好き。
  • 少し不在だ。

 

ちょうどよかった。

そんな人にオススメの小説がある。

辻村 深月さんの『凍りのくじら』だ。

 

あらすじ

藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う一人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき―。(「BOOK」データベースより)

 

凍りのくじら

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ああ、困った。空を自由に飛びたいし、今すぐどこかへ行きたし、過去や未来へタイムスリップしてみたい。地球も破壊してみたい。

 
わがまま言わないの! という母親の声が聞こえてきそうだが、僕は知っているのだ。彼なら、その全てを叶えてくれる。不思議なポッケで叶えてくれる

 

狸のような猫型ロボット。

彼の名前はドラえもん。小粋な狸のような猫型ロボットである。空を飛びたければタケコプター』 どこかへ行きたければ『どこでもドア』 タイムスリップしたいなら『タイムマシン』 地球を破壊したければ『地球破壊爆弾』 どんな頼み事でも聞いてくれる粋な奴だ。

 
そして、その少し不思議な物語は、もう一つの少し不思議な物語を胎児のように生み出した。

 

よく見えない。

ドラえもんが親との絆のように大好きな女子高生、理帆子。彼女が見ている世界は、まるで実際にいる位置よりも一歩後ろにいるような視界で、よく見えない。見ようともしていなかった。

 
そんな理帆子を見て、僕はネズミにかじられたように愕然とする。奇しくも僕も理帆子と同じような感覚を、ずっと抱いていた。これは僕ではないか…? まさか筆者は僕をモチーフにしているのか…? そんなバカな、一体どこから見られていたというのだ! 

 

少し不健康で、少しフラット。

まぁ、そんなことはなく理帆子はある青年と出会う。少し不健康で、少しフラットな青年。理帆子は彼と出会い、いろいろなことに気づき始める。それは僕も気づかなければいけないことでもあった。

 
やがて理帆子は光に照らされる。全てをひっくり返してしまうような光。理帆子と僕を変える光。

 
僕も一緒に浴びたのだけれど、人間はそう簡単には変われない。でも気づけたし、勇気をもらった。

 
理帆子と光にはありがとうと言いたい。

 

 
ありがとう。
 

 

みんな大好きドラえもん。

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もし井戸からいきなり貞子っぽい人物が出てきたらどう思うだろうか。不思議だけれど、「不思議だなぁ」と悠長に構えてはいられないはずだ。悠長にしている人がいるとしたら、急いで逃げたほうがいい。貞子はそんなに甘くない。

 
このように貞子と不思議は時折、僕に牙を向ける。怖い。やはり少し不思議ぐらいがちょうどいいのかもしれない。ドラえもんも本作も貞子も。

 

少し不思議なドラえもん。

少し不思議なドラえもん。本作はそんなドラえもんへの愛がナイアガラの滝のごとく、ダダダーッ! と溢れ出たら、あら不思議、凍りのくじらになっていた、とでも言うかのように溢れている。

 
所々で出てくる秘密道具のワードや、エピソード。それらは全くの違和感を感じさせず、ごく自然に本作に溶け込む。そして、混ざり合った物語はドラえもんとはまた別の少し不思議に変わる。それは時に理帆子を追い詰めるかのように追いかけるけれど、時には優しく見守るように助けてくれる。

 
理帆子の少し不在を埋めてしまおう、とでもするかのように。

 

地球破壊爆弾。

ちなみに僕が思うに、ドラえもんが地球破壊爆弾を持っているのは少し不思議では済まされない気がする。地球の命運を左右するような爆弾なのだ。国家レベルの問題のはずだ。

 

 
これは少しも触れてはいけない。