本と宴





思弁的だからあかんかった。

 
ご来訪に感謝。
ところで、こんなことを思う時がないだろうか?
 
  • 思弁的になりたい。
  • もしくはそれで困っている。
  • 人はなぜ人を殺すのだろう。

 

ちょうどよかった。

そんな人にオススメの小説がある。

それは『町田 康』さんの...

f:id:s-utage:20210506223903j:plain

ばーん!

 

告白とあらすじ。

人はなぜ人を殺すのか―。河内音頭のスタンダードナンバーにうたいつがれる、実際に起きた大量殺人事件「河内十人斬り」をモチーフに、永遠のテーマに迫る著者渾身の長編小説。第四十一回谷崎潤一郎賞受賞作。(「BOOK」データベースより)

 

 

 

どんな話?

あまりにも思弁的な主人公の鬼気迫る人生。思弁的だったからなのか、それとも元々狂気に満ちていたのか。それは誰にもわからない。答えは彼の思弁の海の中だ。

f:id:s-utage:20210506223856j:plain

 

思弁の海を遠泳した果てに主人公は何を見たのだろうか。そして、『河内十人斬り』という大量殺人はなぜ起こってしまったのだろうか。

f:id:s-utage:20210506223900j:plain


感情流れるままに筆者は問う。人はなぜ人を殺すのか、と。

f:id:s-utage:20210506223910j:plain

 

ここがおもしろい。

 
  • 河内弁が流れていく。
  • 思弁も流れていく。
  • 主人公はあかんかった。

 

河内弁が流れていく。

 

f:id:s-utage:20210506223851j:plain

滅茶苦茶、河内弁である。河内弁というのは、大阪弁に近しく、さらにちょっと怖さを足してみてしまえ、ということで河内弁は生まれた、のかもしれない。たしかに怖い。

 

だが、この河内弁が筆者の濁流のような文章にのり、主人公の職業と性格も相まって絶妙なリズムを生み出している。時代も波も河内弁も流れに乗った方がいい。少し酔うかもしれないけれど、それはそれでたまらなく気持ちいい。魔術のような言葉の揺れが楽しくて仕方がないのである。

 

 
よこのり、たてのり、たかのり。
 

 

思弁も流れていく。

 

f:id:s-utage:20210506223846j:plain

思弁的とは体験していないのに、論理的思考だけで物事を判断してしまうこと。村では大抵百姓になるのがセオリーであるが、主人公は思弁の果てに極道となり、ふらふら遊びに耽る。つまりはアクティブなニートである。

 

僕もニート、ではなく思弁的の果てに脳内で全て完結してしまい、行動や言動が表に出ず、どんな憎らしいことがあったとしても、まあ、いいか、となることが多々ありすぎて困っている。そのくせ、追い詰められると行動せざるを得なくなり、とんでもない突飛な方向へと力が働くのだが、いい方へ向かう時もあれば、悪い方にも動くのでやっかいだ。

 

なので主人公には、双子かと勘違いしてしまうほど共感してしまい胸が苦しくなる。文章的にいえば思弁は心地よく響くのだけれど、主人公にしてみると、大変生きづらかったことだろう。

 

 
言いたいことも言えないこんな世の中じゃ。
 

 

主人公はあかんかった。

 

f:id:s-utage:20210506223907j:plain

主人公の村は大体の人が百姓になった。が、なんでならなければいけないのだ、と反旗を翻したのが主人公である。今の時代ならば、そうだ、そうだ、百姓が絶対ではないはずだ、と賛同してくれる人がいたかもしれないが、当時そんな人間は、ほとんど存在しなかった。

 

彼が唯一、気持ちを発散できる場所は、思弁の海だけだったのかもしれない。きっとそこは気持ちよかったのだろう。外に出る方法がわからなくなるぐらいに。

 
主人公の人生はあかんかった。でも僕はそんな主人公が愛しくて仕方がない

 

 
あかんではないか。
 

 

まとめ。

 

小説は映画やドラマと違い、登場人物たちの内なる心が描かれる。なぜそうしたのか。なぜそう言ったのか。感情移入し、いつしか主人公にのりうつり、壮大なドラマを駆け抜けていくのが小説の醍醐味であろう。

 

本作も例に漏れず、主人公に感情移入していったのだが、パンク寸前。自転車屋さんが儲かってしょうがない程に、僕のキャパでは抱え切れない感情が流れ込んでくる。

 

苦しくて、うおお、と狼狽えてみるも誰も助けてはくれない。このままではその内、主人公に身体を乗っ取られてしまうのではないか、と不安にもなるけど恐れてはいけない。彼の気持ちに寄り添えば、あら、不思議、何も怖くはない

 

乗っ取られた時は乗っ取られた時、それはそれで構わない。既に僕は彼の思弁すぎる性格を熟知している。どこまででも行ってしまえばいい。その覚悟はとっくにできている。

 

そんな主人公の凶行は今でも世にうたいつがれている。河内音頭のスタンダードナンバー『河内十人斬り』主人公は一体どんな気持ちで、それを眺めているのだろうか。

 

f:id:s-utage:20210506223849j:plain