本と宴





【書評・感想文】忘れたくない大切な気持ちを描いた小説を読みたいのであれば、消しゴムでは消せない恋の物語を読めばいいと思う

管理者:宴

ご来訪に感謝。

ところで、こんなことを思う時がないだろうか?

 

 

  • 消しゴムはまとまるくん一択。
  • 消したくない思い出がある。
  • 飼っていた牛が突如消えて困っている。

 

ちょうどよかった!

そんな人におすすめの小説がある。

 

『一人暮らしをしようと思って思い描く理想の部屋の壁紙』と『消しゴム』って大抵は白いよね。

どうも、宴だよ。

 

注意

諸説あります。

 

今回は『消しゴムでは消せない恋の物語』ということで、白河三兎さんの『角のないケシゴムは嘘を消せない』をご紹介していこうと思う。

 

消しゴムでは消せない恋の物語

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あらすじ

兄/信彦―「しばらく家に泊めてよ」「無理」突然上京してきた妹のお願いを、俺は瞬殺するしかない。なぜならウチには…透明人間の恋人が住んでいるから。妹/琴里―隣を歩いていた彼氏が忽然と消えた。見つけ出して殴らなきゃ、私の初恋は終われない!…でも、どうやってアイツは“消失”したんだろう?兄妹の恋路はいつしか重なり、新たな謎を孕んでいく。疾走!迷走!先の見えない恋と人生の行方は。

 

筆者の白河三兎さんは、2009年に『プールの底に眠る』で第42回メフィスト賞受賞でデビュー。その後、2012年に本の雑誌社が刊行した『おすすめ文庫王国2013』で『私を知らないで』という作品がオリジナル文庫大賞ベスト1に選ばれている。

 

<他作品>

『君のために今は回る』

『冬の朝、そっと担任を突き落とす』

 

 

 

角のないケシゴムは嘘を消せない

管理者:宴
消しゴムの角って大事だよね。
 

 

書き出し

丸の内から牛が姿を消した夜にオキもいなくなった。

 

オキというのは琴里の恋人であり、牛はモーと鳴く癒し系(人による)の家畜である。牛の消失とオキの消失にどんな因果があるのか。琴里は意を決して上京する。

 

一方、琴里の兄である信彦の部屋には透明人間が侵入してきて…

 

琴里と信彦の視点から交互に展開される消失と透明人間の謎。そして恋。

はたしてどうなることやら…

 

STEP
琴里上京。
消失したオキを追い上京する。
STEP
信彦の部屋に透明人間。
透明人間と同棲をはじめる。
STEP
まさかの展開!
まさかそんな、とにかくてんやわんや。

 

消失がしかけるマジック

管理者:宴
消失マジック。
 

 

社会って大変だよね。とくに人間関係。

 

「人と人が理解し合うには余計なものが多過ぎるんだよ」

 

じゃあ、思い切って消してしまえ、と筆者はまずは牛を消し、オキを消したのだけれども、筆者のケシゴムの勢いは止まらず余計なものをどんどん消していく。それこそが筆者の仕掛けたマジックである。エッフェル塔並の大仕掛けだ。

 

けれど、余計なものがあるからこそ人間は面白いし、素晴らしい。マジックが消えた時、見えてくるものは物語を根底から覆すケシゴムでは消し切れなかった想いだ。どんな優秀なケシゴムでも消せないものってあるんだね。

 

ケシゴムで消したいものベスト3
  • 中学生の頃の黒歴史ノート
  • 進化過程が不明瞭な虫
  • 若気の至り

 

琴里の勢いが凄まじい

 
 
 
 
管理者:宴
エッジがきいているよ。 

 

本作はいい意味でも悪い意味でもすごくメフィスト賞っぽい。

 

筆者はメフィスト賞出身なので当たり前といえばあたりまえなのだけれども、所謂勢い系の小説に分類されるかと思う。初期の舞城王太郎さんのような。

 

それもこれも主人公琴里の性格が滲み出ている影響が大きい。琴里は、どうまろやかで朗らかな目線で見てもエッジの利いた性格をしていて、ジャポニカ、ミンナ、ヤサシイと思っているかどうかは知らないが道を尋ねてきた外人に暴言を吐き、子供をガキ扱いしてあしらう始末。語り口調も、いくぞいくぞ、とノリノリである。

 

それに嫌悪感をしめす人もいるかもしれないけれど、消失に透明人間というとんでもない設定にはこの勢いがちょうどよくハマる。テンポよく物語を進めるスパイスはこの琴里が担っているのだ。

 

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ノリノリな例

 

琴里にキュンとする

管理者:宴
胸キュンだよ。 

 

琴里の恋人の消失から本作ははじまるのだが、あんなにエッジメンタルしていた琴里が、事情がどうであれ、好きな男を追うなんて…おじさんにはたまらないのです。胸が締め付けられてしまう。日向坂的に言えばキュンキュンキュンキュンどうして。

 

そんな琴里が溢れ出ている文章がある。

 

「台風一過」を「台風一家」と思い込んでいたこともあった。

 

え、違うの? と僕も思わず驚いてしまった。あれ、僕も琴里の要素があるのかしらん。

そして、

 

空を眺める人って田舎っぺか、心の寂しい人なんだよ。

 

琴里は田舎っぺであり、心の寂しい人の素質を持っている。この恋心、僕が想像していた以上に切なかった。テーブルにちょこんと存在感を放っていた消しゴムを、親の仇のように恨むほどに切ない。

 

衝撃と切なさが入り混じる恋心は、もう2度と消しゴムで消せやしないことだろう。

 

透明人間が侵入してくる

管理者:宴
全然、不法侵入だよ。 

 

春が透明人間と遭遇しやすい季節という話は聞いたことがない。

 

ただ自称透明人間だと言い張る人は、春に多く出現するかと思われる。僕は一度会ったことがある。「僕透明人間なんですよ」と言ってきた見知らぬ人に。すぐさま逃げたので、とくに広がるエピソードはないけれど、気をつけようと思った。どう気をつけるのか定かではないが。

 

春に出てくる人々
  • ちっちゃなおっさんが見える人。
  • 高校、もしくは大学デビュー失敗組。
  • 『さくら』って曲を出すアーティスト

 

だが、信彦の部屋に侵入してきた透明人間は自称ではない。透明だった。

 

僕ならば驚きのあまり「不法侵入ですよ!警察呼びますよ!!」と見えない敵に、見えにくい国家権力をちらつかせるが、信彦は弱っていたとはいえ受け入れてしまう。その寛容さは屈斜路湖よりも大きい。

 

ただ、この同棲生活はただの同棲生活ではなかった。透明人間にとって潜伏生活でもあり、クリスマスよりも大切なイベントでもあったのだ。

 

ああ、そうか、忘れていたけれど、これは恋の物語であった。透明人間の心があまりにも透明だったから見えなかったのだ。この切なさは透明にはできなかったようである。

 

大きな力

管理者:宴
権力には簡単にひれ伏すよ。 

 

この世界には目に見えないものが多く存在している。伏せられた真実がゴロゴロしている。

 

この真実に信彦も透明人間も、そして琴里も翻弄されていく。それは東京タワーよりも大きな力だ。

 

きっと、人の上に立つには人を踏み付けても胸が痛まない鈍感さが不可欠なんだろう。

 

そういう力がこの物語をただの恋物語では終わらせてくれなかった。消失と透明人間を巡る緊迫感溢れる展開に襲われ、緊急連絡も辞さない構えだ。

 

人間って

最後にこの物語の確信をつく言葉をおくりたいと思う。

 

全ての出産は奇跡であり、全人類は一人一人が奇跡の人だ。

 

正義は一人一人の心の中にある。本当は誰もがヒーローなんだ。

 

使い古された言葉かもしれないけれど、この物語があってから聞くと、自然と心に染み渡る言葉だ。

 

そんなわけで僕は明日から奇跡の人でありヒーローになろうと思う。え、今日から? いや、疲れたから明日から本気出すね。

 

 

 

まとめ

さて、今回は白河三兎さんの『角のないケシゴムは嘘を消せない』を紹介させていただいたが、いかがだっただろうか。

 

琴里の恋。

透明人間との同棲。

消失。

 

とんでもない設定から放たれる切なさには頽れそうになったけれども、琴里も信彦も、そして透明人間も、きっと幸せに生きていくことだろう。どんな結末になろうとも、消しゴムでは消せない思い出を胸に抱えて。

 

それでは本日はこのへんで。

ごきげんよう。

 

 

管理者:宴

ご覧いただきありがとうございました!

ぜひ読んでみてね!

 

 


 


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