本と宴





【書評・感想文】人間関係に嫌気がさして優しい気持ちになれないのならば、人と人との不思議な繋がりを描いた物語を読めばいいと思う

管理者:宴

ご来訪に感謝。

ところで、こんなことを思う時がないだろうか?

 

 

  • わかりますよ、わかります。
  • いつでも迷子になる自信がある。
  • 約束してないけど移動したい。

 

ちょうどよかった!

そんな人におすすめの小説がある。

 

『スキャンダルをおこした推しが載っている雑誌』と『約束』ってやぶるにやぶれないよね。

どうも、宴だよ。

 

memo

やぶりたいけどやぶれないこの想い。

 

今回は『人と人との不思議な繋がりを描いた物語』ということで、小川洋子さんの『約束された移動』をご紹介していこうと思う。

 

人と人との不思議な繋がりを描いた物語

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あらすじ

こうして書棚の秘密は私とB、二人だけのものになった―ハリウッド俳優Bの泊まった部屋からは、決まって一冊の本が抜き取られていた。Bからの無言の合図を受け取る客室係…。“移動する”六篇の物語。

 

筆者の小川洋子さんは1962年3月30日生まれ。

 

<主な受賞歴>

1988年『揚羽蝶が壊れる時』海燕新人文学賞

1991年『妊娠カレンダー』芥川賞

2004『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞

2004年『ブラフマンの埋葬』泉鏡花文学賞

2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞

2012年『ことり』芸術選奨文部科学大臣賞

2020年『小箱』野間文芸賞

 

<他作品>

『密やかな結晶』

『猫を抱いて象と泳ぐ』

『口笛の上手な白雪姫』

 

 

 

約束された移動

管理者:宴
移動が…約束されている?
 

 

摩訶不思議なタイトルだけれども、移動って約束するものなのだろうか…? と、ひとりの夜に思考を巡らせ、ふもふもしていたのだけれど、読んでみると納得。なるほど。

 

とはいえ、僕がこの物語にタイトルをつけるという謎の職務を任せられていたとしたならば『約束された移動』なんてスバラなタイトルは空から舞い降りてくることはないだろう。筆者だからこそ、神様が降ろしてくれたタイトルである。

 

一旦袋小路に入り込むと、あれほどファンを魅了した美しさはむしろ足かせになった。大理石の彫刻が永遠ではないと気づき、まるで裏切られたかのような錯覚に陥った人々にとって、Bはもはや、失われてゆく美の残骸でしかなかった。

 

本作は短編集。表題作『約束された移動』は一世を風靡した俳優Bとの不思議な繋がりの物語だ。

 

彼は転落したのではない。象や無垢な少女や船長や、一家の名もない母に導かれ、行き着く場所に向かって、今も移動を続けているのだ。

 

その繋がりこそが『約束された移動』である。あまりのセンスに、僕は筆者がこの世界を作り出した創造主なのではないか、と疑っているところだ。

 

STEP
約束された移動
俳優Bの物語。
STEP
ダイアナとバーバラ
ダイアナ妃に憧れる祖母と孫の物語。
STEP
元迷子係の黒目
協調性を無視した黒目と迷子の物語。
STEP
寄生
おばあちゃんに寄生される物語。
STEP
黒子羊はどこへ
誰にでもやってくるある日の物語。
STEP
巨人の接待
接待をする通訳と巨人の物語。

 

ダイアナとバーバラ

管理者:宴
ダイアナ妃はカリスマ。
 

 

「わかります、わかりますよ」

 

「いくら大勢の人間がいようと、見ず知らずの間柄だろうと、他の誰でもない、あなたのためだけを思っているんですよとたちまち相手に錯覚させる、一番手っ取り早い方法がこれなんだ」

 

こんなことを言われたら「わかってくれるんですね」と好感度の上昇率が憤りを超えて遥かな高みへ行くことは間違いがない。それはそれで難しい気もするけれども。

 

この短編はダイアナ妃への憧れがところせましと渦巻き、もう狂気だね、と諦念しそうな物語だが、それはそうと祖母と孫の関係性が心臓を隙あらば穿ってくる。何ともいえない場所に刺さる棘のような違和感を感じる。

 

モヤッとするような、はっきりとした像のない感情がひしめき合って、「わかります、わかりますよ」と言いたいところだけど、この感情をなんと説明すればいいのかは全然わからない。

 

全然わからないものベスト3
  • 人の金メダルに噛みつく。
  • コロナ禍でも大勢で飲み会をする強気。
  • 恋に墜ちる仕組み。

 

元迷子係の黒目

 
 
 
 
管理者:宴
迷子を見つけさせたら右に出るものはいない。
 

 

"ママの大叔父さんのお嫁さんの弟が養子に行った先の末の妹"

 

あれ、それはもう他人だね、といった風情の黒目。彼女は元迷子係であり、迷子を見つける才能に長けている。

 

「一人ぼっちでいる子どもくらい可愛そうな生きものは、他にいない」

 

手のつなぎ方を知らない子は一人もいない。

 

そんな迷子フリークの彼女。きっと迷子のことを誰よりも理解していたのだろう。

 

あの厄介で鬱陶しい協調というものを、これほどきっぱり無視している二個の黒目に、私は畏敬の念を抱いた。

 

そんな黒目と私の物語は、湯豆腐の豆腐が崩れないようにするような優しさで満ちている。

 

迷子は素直に彼女の手を握った。探していたのはママではなく、あなただったのです。そんなふうに語りかけられている気持ちにさせる素直さだった。

 

こんな迷子係であれば、僕も迷子になってみたいものだ。ただ病院や警察に送られる率がインフレをおこし始めているので、相当の決意がなくては出来ないのが無念である。

 

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迷子になりそうな場所一覧

 

黒子羊はどこへ

管理者:宴
誰にでも来るであろう、ある日。 

 

ライト兄弟が飛行機で空を飛んだのも、ガリレオが地動説を証明したのもすべて"ある日"の訪れのおかげだった。

 

誰にでも訪れるであろうある日。昔話なんかも、ある日おばあさんは山に芝を刈りに行ったおじいさんを狩りに~、などで始まる。ある日、とは人によって転機の日でもあり、偉業を成し遂げた日でもあり、始まりの日でもあり、終わりの日でもある。

 

何でもないように思えたある日だけれど、そう考えると、ある日、ってすごい重要な一日なのだと思い知らされる。それは今日かもしれないので、少しでも立派なある日になるよう努めることにしたいと思う。

 

いろんな人のある日。
  • ゴムゴムの実を食べた。
  • デスノートを拾った。
  • ペットボトルを投げつけた。

 

 

 

まとめ

さて、今回は小川洋子さんの『約束された移動』を紹介させていただいたが、いかがだっただろうか。

 

約束された移動という繋がり。

ダイアナ妃への憧憬の念。

ある日。

 

本作は今までの作品に比べ、些細な残酷さが入り混じっているように思える。優しいだけでは終わらない。不思議なだけでは終われない。ここに描かれているのは、人間のエゴとそれが見る人によれば不思議であり優しい世界だという事実だ。筆者はそれを丹精込めて作り上げたのだ。

 

それでは本日はこのへんで。

ごきげんよう。

 

 

管理者:宴

ご覧いただきありがとうございました!

ぜひ読んでみてね!

 

 


 


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