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本と宴へようこそ。
どうも、宴です。
このご時世、体温の上がりすぎには要注意です。でも、本作を読むと体温が上がってしまうかもしれません。何と言ったって本作には夏の体温が詰まっているのですから。
ということで、今回は瀬尾まいこさんの『夏の体温』をご紹介させていただきます。
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夏の体温/瀬尾まいこ
夏休み、小学三年生の瑛介は血小板数値の経過観察で一ヶ月以上入院している。退屈な病院での日々。そんなある日やって来たのが、「俺、田波壮太。三年。チビだけど、九歳」と陽気に挨拶する同学年の男子だった。低身長の検査入院らしい。たちまち打ち解けた二人。壮太は、遊びを考える天才だった!-でも一緒にいられるのは、あと少ししかない。「夏の体温」(表題作)。「出会い」がもたらす「奇跡」を描いた作品集。中学国語教科書に掲載された掌編も収録!(「BOOK」データベースより)
優しさ | 9/10点 |
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ドキドキ | 6/10点 |
感動 | 8/10点 |
切なさ | 7/10点 |
読みやすさ | 10/10点 |
総評 | 9/10点 |
書評・感想文
舞台は病院
どうやら僕は小説の神様でも何でもないようなのですが、思わず「上手い!」と心を震わせてしまうことがあります。神様でも何でもないというのに、何様のつもりなのでしょうか。
本作は『夏の体温』ということで、さぞ夏満開の場所が舞台で、生みやら麦わら帽子やら海坊主やらジョーズやらが飛び交う夏物語なのだろう、と三角形の公式ぐらい単純な想像を膨らませていましたが、なんと舞台は病院だったのです。しかも、外に出られないというおまけ付きです。
さすがの瀬尾まいこさん
物語は小学三年生である瑛介が長期入院中のところからはじまります。小学生の夏休みに長期入院というのは、はい、地獄へ行ってくださいと言われているようなものです。そんな退屈地獄の中で出会ったのは、同い年の壮太。すぐに退院してしまう壮太との限られた時間の中で育まれるかけがえのない時間と友情には胸が熱くなります。
あれ…? どこに夏感があるの?? 全然夏の体温感じないじゃないか! と、途中までふんぷんとしていたのですが、最後の最後にやってくれました。なぜ『夏の体温』なのか、そして、どうやって『夏の体温』を感じることができるのか。ここに瀬尾まいこさんの技巧が凝縮されていたのです。
読了後、僕は、「これは上手い!」と心の中で叫びましたし、「上手い!」というオーディエンスの声も聴こえましたし、「これは夏だ! 夏の体温だ!!」という天からの声も聴こえました。おそらく空耳だと思います。もしくは幻聴でしょうか。
魅惑の極悪人ファイルと花曇りの向こう
本作は表題作以外にも二篇収録されています。瀬尾まいこさんが描く極悪人とユーモアが垣間見える『魅惑の極悪人ファイル』。そして、中学国語の教科書に載ったという偉業を達成した『花曇りの向こう』。
あらゆる瀬尾まいこさんが詰まっていると言っても過言ではない本作。僕の体温は夏の体温どころか、黒点の体温となり燃え上がっています。なので、近づかないでください。火傷ではすみません。すみません。
心に残った言葉・名言
なんでもOKになると、わがままは成り立たない。それに、どれだけ買ってもらっても、欲しいものを手に入れた気分にはなれなかった。許されることが増えることは、本当は悲しいことなのかもしれない。
俺はチビだからおもしろくなって、瑛ちゃんは入院が長いから優しくなったってことか。瑛ちゃんが病気で、俺が小さくてよかったー
自分に自信がないのなら、先に「私ブスなんで」と開き直ればいいのだ。そうしてしまえば、「ブスのくせに」と指摘されることはない。
「一度出た言葉って取り消せないんですよ。もし、倉橋さんが政治家なら非難が収まらず辞職しているはずです」
物語は私を救ってくれる。しんどい現実から、優しい世界へと連れだしてくれる。だけど、こんなふうに頭の中以外を動かしてくれることはなかった。現実は、私の意思のもと、私の体をどこにだって運んでくれる。
「いいねえ、子どもは。ぼんやりしとっても、やることが転がってくるんやから」
瀬尾まいこさんの他作品
最後に
夏を感じさせる小説を読みたい人、紙飛行機を作るのが好きな人、借りパク上等な極悪人にはおすすめだから、ぜひ読んでみてね。
それでは本日はこのへんで。
ご覧いただきありがとうございました。