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本と宴へようこそ。
どうも、宴です。
いえって落ち着きますよね。でも、そこが落ち着かない場所になってしまったら…人生何があるかわからないから、気をつけないといけないません。
ということで、今回は小野寺史宜さんの『いえ』をご紹介させていただきます。
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いえ/小野寺史宜
社会人三年めの三上傑には、大学生の妹、若緒がいた。仲は特に良くも悪くもなく、普通。しかし最近、傑は妹のことばかり気にかけている。傑の友だちであり若緒の恋人でもある城山大河が、ドライブデート中に事故を起こしたのだ。後遺症で、若緒は左足を引きずるようになってしまった。以来、家族ぐるみの付き合いだった大河を巡って、三上家はどこかぎくしゃくしている。教員の父は大河に一定の理解を示すが、納得いかない母は突っかかり、喧嘩が絶えない。ハンデを負いながら、若緒は就活に苦戦中。家族に、友に、どう接すればいいのか。思い悩む傑は…。本屋大賞第2位『ひと』、そして『まち』に続く下町荒川青春譚、第3弾!(「BOOK」データベースより)
温かさ | 7/10点 |
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空気感 | 9/10点 |
苦しさ | 6/10点 |
読みやすさ | 7/10点 |
総評 | 7/10点 |
書評・感想文
衝撃的な出来事
人生には衝撃的な出来事が多くあります。たとえば、押していたアイドルグループのメンバー脱退。これは心にぽっかり穴が開いた挙句に背骨がぽっきりと折れてしまうような感覚を抱いてしまいます。
これがドラマとかだと、立ち直らせてくれるようなイベントがあったりするものですが、実際問題、現実ではそんなイベントはそうそうありません。時間や経験が傷を少しだけ癒してくれるだけです。
小野寺史宣さんという作家は、そんな時間や経験を描くのがこの上なくうまいのです。『ひと』という小説でも、それなりな出来事があったにも関わらず、流れていく優しい空気感にひとたまりもなくやられたものです。
過酷な前提
本作『いえ』でも、その空気感に妥協点は見当たりません。物語は主人公の友人が運転中事故を起こし、同乗していた恋人である主人公の妹が障害を持ってしまった、という苛酷な前提からはじまります。
それによりひび割れそうな家族、友人、仕事。そのひびを直してくれる業者の方は、もちろん名乗りではくれませんし、解決してくれる出来事もありません。人生には不幸な出来事はあっても、不幸をチャラにしてくれる出来事なんてないのです。
三月から十月
ではどうするのか。そこで小野寺史宣さんは三月から十月までの時間をもうけました。およそ半年間の時間と日常の域を出ない出来事たち。それが主人公を前に進めていくのです。
そこにはエンターテイメント性が溢れ出るような出来事はありません。ただただ優しい時間と人が流れているだけ。だからこそ、それが素直に心に染み込んでいくのです。おでんのがんもどきのようなものです。
その優しさは小野寺史宣さんの天賦の才なのでしょう。小野寺史宣さんに会ったことはもちろんないのですが、おそらくマザーテレサみたいな人なんだと思います。人を愛しなさい、と言っている気がしてなりません。
心に残った言葉・名言
「昔は運動するときに水を飲むなとか言われてたらしいしな。飲むと余計疲れるからって。今と真逆。まちがってることを、あえてしてた。こわいどころじゃなくて、あぶないよな」
だから、店長を出せ、と言ってくるお客様に、おれはこう言いたくなる。店長はお客様が思われるほど偉い感じではありませんがそれでもよろしいですか?
人が自分とはちがう相手と接するのは難しい。普通に接するのが一番。そんなことはわかってる。が、普通に接しようとする、というそのこと自体がもう普通ではないのだ。
大人になると、こんなことがたまにある。カッコ悪い行動をしてるのがカッコよく見える、なんてことが。
たまにはあんなふうに水をぶっかけられた感じになんないと、いつの間にかダラダラする。人間は水と同じで、やっぱ低きに流れるからな。
人間、ものの感じ方は変えられない。これはちょっといやだな、と感じてしまうのはしかたない。でも感じたあとの行動を変えることはできる。こうは動くまいと努めることはできる。その意味でのみ、人は変われる。
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最後に
家が好きな人、家族が壊れそうな人、正社員としてスーパーで働いている人にはおすすめだから、ぜひ読んでみてね。
それでは本日はこのへんで。
ご覧いただきありがとうございました。