ご覧いただきありがとうございます。
本と宴へようこそ。

どうも、宴です。
空に浮かんでいるものってきれいだよね。でも、それを眺めている人間はきれいなのかな。信じるに値する人間なのかな?
ということで、今回は今村夏子さんの『星の子』をご紹介させていただきます。
<おすすめ記事>
星の子/今村夏子
林ちひろは、中学3年生。出生直後から病弱だったちひろを救いたい一心で、両親は「あやしい宗教」にのめり込んでいき、その信仰は少しずつ家族のかたちを歪めていく…。野間文芸新人賞を受賞し、本屋大賞にもノミネートされた著者の代表作。(「BOOK」データベースより)
あやしさ | 9/10点 |
---|---|
ドキドキ | 8/10点 |
感動 | 8/10点 |
切なさ | 10/10点 |
読みやすさ | 10/10点 |
総評 | 10/10点 |
書評・感想文
これはおかしい
昔々の話です。職場の知り合いの方に「いいこと教えてやるよ」と言われ、「ふわぃ」と空に舞いあがる風船ぐらい軽い返答をしてしまった結果、着いていった先で僕は大後悔をしました。いわゆるマルチ商法でした。
主に化粧品を売っている会社でした。衝撃だったのが、説明で見せられたDVDで水槽の中泳いでいる魚たちに化粧品を投入。弊社のはピンピンしていますが、他社のはすぐに死んでいってますね、ね、すごいでしょ? …いや、実験であろうと魚を不必要に殺してしまう会社に用はございません。その日から僕は雲隠れ。空島のような電波の届かない場所へと旅立ちました。
でも、もし紹介してきた人が、自分の信じる家族や友人であったならば、僕は空島に旅立ったのでしょうか。もしくは、マルチ商法、それに準ずる宗教が物心ついた時から存在している生活をしていたら、僕は両親に「これおかしい」と断じることができるのでしょうか。
信じ切れるのか
本作『星の子』に出演中のちひろの両親は、あやしい宗教にのめりこんでいました。ちひろにとっても幼い頃から当たり前の状況だったので、日常の一部分となっています。ですが、当然と言えば当然なのですが、外の世界の住人たちは、それを「おかしい、あやしい」と懐疑的な目を向けてくるのです。
そんな状況の中、信じる人が信じている信じ難いものを信じ切れるのかどうか。本作はそんな議題を物語という形にして、議論に議論を重ねまくり、ミルフィーユのようにまたさらに重ねていく小説です。
文章という魔法
不思議なのが、作中ちひろの心情はほとんど語られません。なのに、ちひろの気持ちを慮ると、息苦しさと歯がゆさが身体中を駆け巡り、胸が掻きむしられるような痛みともどかしさを感じるのです。ひょっとすると、今村夏子さんは本作に魔法をかけたのかもしれません。文章という魔法を。あ、あやしいですね。
それにしても日本人は宗教=あやしいと即断しがちな気がします。まぁ、大抵はあやしいのでしょうけれど…でも、もしも大切な人が信じていることなのであれば、その信じているものを一緒に信じてみるのもアリなのかもしれません。
たとえそれが間違いで、本当にあやしかったとしても、信じたいって思う気持ちには、何一つあやしいところなんてないのですから…
まぁ、間違ではあるかもしれませんが…
心に残った言葉・名言
『身体の中で宇宙に一番近い部位であり、また全身の神経が集まる場所でもある頭頂から直接働きかけることにより、血液中のリンパ球がより一層刺激される』

だからね、人からあんたのことをこの人誰ですかってきかれても、なんて説明したらいいかわかんないのよ。友達ですって言葉がすぐにはでてこないの。

……ぼくは、ぼくの好きな人が信じるものを、一緒に信じたいです。……それがどんなものなのかまだ全然わからないけど、ここにくればわかるっていうんなら、おれ来年もここにきます。わかるまでおれはここにきま、えー、くることを、おれはおれの好きな人に、約束します

今村夏子さんの他作品
最後に

大切な人があやしい宗教にのめりこんでいる人、大切な人を信じたい人、両親が河童の人にはおすすめだから、ぜひ読んでみてね。
それでは本日はこのへんで。
ご覧いただきありがとうございました。
