ご覧いただきありがとうございます。
PON!と宴へようこそ。
どうも、このドア、ひょっとするとどこでもドアなのでは? と疑いながら生きている宴です。
今のところ、どこでもドアはどこでもありませんでした。
さて、そんなわけで今回は西加奈子さんの『夜が明ける』という作品をご紹介させていただきます。
貧困に喘いだら
はぁ…
あ、すいません。
ため息、聞こえちゃいました?
…いやね、最近、お金ないなぁと思いましてね。
というのも、この前、全財産が入った財布を落としてしまったんです。
あれは本当に落ちましたね。
財布と一緒に心まで落としてしまったのではないかなぁ、と不安になるぐらい落ちました。
そんなわけでやむを得なく貧乏生活を送っているんですけど、本当に辛くなちゃって。
心が折れかけてしまったんです。
僕ぐらい貧乏な人っていないんだろうなぁ…
しかも、甲斐性も無ければ器も小さいし髪も薄い…
はぁ…
といじけていたらね、いたんですよ。
僕よりも壮絶な貧困を体験した人が。
ちょっとだけ話を聞いてみたのですが…
これはいじけている場合ではない! と奮い立たされてしまいましたね。
突然の貧乏
その人は生まれた時から貧乏ではなく、とある事情から突然貧乏になってしまったそうなんです。
何でなの? と訊いたのですが、詳しくは教えてくれませんでした。
まぁ、そりゃそうですよね、人にはいろいろありますし、言いたくないこともプレイボーイの浮気の回数ぐらいたくさんありますよね。
ほうほう、僕もですよ、と共感の相槌を打っていたんですが、その内、あ、僕とは次元が違うと気づいてしまいまして申し訳ない気持ちになりました。
もうこれはダメだ、謝ろう。
僕は貧乏とか言っていましたけど、実家は金を持っています。
多くはありませんが、大晦日におせちを変えるぐらいのお金はあるのだと正直に謝ろう。
で、ちょっとだけ謝ったところで止められてしまいましてね。
うわ、なんていい人なんだって慄いていたんですけど…
どうやらその人も貧乏になるまで、貧乏の気持ちはわからなかったと言っていました。
それが今になって恥ずかしい、とも言っていました。
あ、僕もです。
僕も今、とても恥ずかしいです。
当たり前に普通の暮らしをしていることのありがたみを認識していないことが、こんなにも恥ずかしいことだったなんて…
手ごろな穴があれば、3回ぐらい入ってみたいです。
俳優に似ている親友
その人は貧乏になってしまってから、悔いていることがあるらしいんですね。
まぁ正確には大分後になってから気づくことではあるのですが、彼には親友がいたそうなんです。
しばらく会っていないようで、それが悔やんでも悔やみきれないと言っていました。
何でも変わった出会いだったようで、僕は映画とかに疎くて詳しくは知らないのですが、ある俳優さんにその親友が似ていたことから親交が始まったとか。
すごいですね。
それって運命的じゃないですか。
その親友さんは今は…?
あ、なるほど。
それはそれは…
でもね、僕は思うんですよね。
親友さんは幸せには生きれなかったかもしれませんが、あなたと出会えたことはきっと幸せに思っていたはずですよ。
ブラック企業?
それにしても、何と言いますか壮絶な人生ですね。
でも、まぁ、ちゃんとしたところに就職できたみたいですし良かったですね。
どんな職場なんですか?
…ほうほう。
…へ~。
…え!
…嘘でしょ?
…え!?
あのぉ…それひょっとしてブラック企業じゃないですか?
華やかにみえる世界に就職できたのはすごいと思いますが、内情はそこまで辛くて厳しいものだったとは…
いや、本当にここまでよく頑張ってきましたね。
すごいですよ。
でも、たまには立ち止まってみてください。
あなたには助けてくれる人がたくさんいるはずなんですから。
だから、ひとりで頑張りすぎずに助けてもらったりもしましょうよ。
無理はなさらずにね。
あーあ、何だか財布を落としただけで落ち込んでいたのが馬鹿みたいに思えてきました。
僕も助けてもらうことにしますね。
消費者金融に。
夜が明ける|西加奈子
そんな物語がここにあります。
貧困 | 9/10点 |
---|---|
過重労働 | 10/10点 |
友情 | 9/10点 |
苦しさ | 9/10点 |
- 貧困に喘いでる人
- 過重労働に苦しんでいる人
- 友達が外国のマイナーな俳優に似ている人
みなさんは明けない夜を経験したことがありますか?
ああ、そうなんですね。
それはちょうどよかったです。
本作はとても苦しみに満ちた2人の壮絶な人生です。
全編に渡り描かれる苦しさは進めば進むほど、夜のように濃くなっていきます。
あまりの濃さに息が止まるのではないか、と不安になりました。
親にまで心配されました。
けれど、たとえどんな辛いことがあっても、どんなに苦しいことがあっても…
それでも、いつか夜は明ける。
だから大丈夫。
とか、そういう言葉を期待していたのですが、残念ながら本作は全然そんなことを言ってくれませんでした。
ただ、誰にでも闇深い夜のような時期はあって、それに立ち向かうための人それぞれの過ごし方があるのだ、ということしか言ってくれません。
でも、それがとんでもなく心に沁みていくのです。
自分の人生がまだ暗くて夜だ、と感じている人にはぜひとも読んでいただきたい一冊でした。
にんげんがにんげんをやるのはさみしい。
この世界には、誰にも知られていない不幸がある。
ぼくのからだのなかで、ぼくでいることが、ときどき、とてもさみしくなる。
誰かの、世界の優しさを信じられないのは、その人が弱いからなんでしょう?
それでは本日はこのへんで。
ご覧いただきありがとうございました。