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本と宴へようこそ。
どうも、宴です。
こわいものには極力出会いたくないですよね。でも、向こうからずいずいとやってくることだってあるのです。そうなったら、もうどうしようもありません。
ということで、今回は川上未映子さんの『春のこわいもの』をご紹介させていただきます。
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春のこわいもの/川上未映子
ギャラ飲み志願の女性、深夜の学校へ忍び込む高校生、寝たきりのベッドで人生を振り返る老女、親友をひそかに裏切りつづけた作家…かれらの前で世界は冷たく変貌しはじめる。これがただの悪夢ならば、目をさませば済むことなのに。感染症が爆発的流行を起こす直前、東京で6人の男女が体験する、甘美きわまる地獄めぐり。(「BOOK」データベースより)
春の怖さ | 10/10点 |
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ドキドキ | 7/10点 |
感動 | 6/10点 |
切なさ | 8/10点 |
読みやすさ | 8/10点 |
総評 | 9/10点 |
書評・感想文
春とコロナ
皆さん、騙されてはいけません。春というのは、ジキル博士とハイド氏のように二面性をもった危うき存在。お花見やら新生活で、人の心をウキウキと陽気にさせておきながら、ある時を境に突如変貌し、何だか物悲しい気持ちを叩きつけてくるような怖い奴なのです。
川上未映子さん『春のこわいもの』は、そういう春の側面、そして、迫り来るコロナというガチのこわいものが混ぜ合わさったらできた短編集です。
コロナ禍直前直後の物語
今までにもコロナ禍を描いた小説をいくつか読んできましたが、大抵はコロナ感染の恐怖、またはその影響によって妨げられた日常を描いたものが多いような気がします。
ところが、本作はコロナが流行りだした直前直後が舞台であり、マスクをしている人がやっとのことチラホラ現れたぐらいの時期。まだ禍になるとわかっていないですし、その恐ろしさも表面的に出てきていないので、内容の軸としてはほとんどコロナが関与していません。
紛れもない
なのにです。怖いのです。コロナ禍になってしまった今、本作を読むと怖くて怖くて身震いをしてしまうのです。
それは春のウキウキワクワクとは違う、春の物悲しい側面、そして、いずれコロナ禍になるのに、という悲哀。この2つが合わさると、「これだよ、これ、これが怖いよ」と断定できない靄のような怖さに襲われてしまうのです。
小説は言葉に出来ない感情を読み手に与えることができたのであれば、それは傑作だと考えています。だから、本作は紛れもない傑作です。『春のまぎれもないもの』です。
心に残った言葉・名言
ねえ、戻れない場所がいっせいに咲くときが、世界にはあるね。
誰にも頼まれてなどいないのに、あるいは自分で自分に課しているわけでもないのに、感想というのは常にやってくるからしんどいものだ。
自分で決められる価値もそりゃあるにはあるだろうけど、同時に他人が決める価値も、あるに決まってるじゃんか。
っていうか、そもそも、自分の顔って、考えてみたらやばくない? 自分で自分の顔って、そのまま直で見たことない。みんなが見てるのは、人の顔だ。自分の顔は、誰かがいるから存在するのだ。
きっと……何かが起きたときに、誰かにちゃんと見つけてもらえる人と、誰にも見つけてもらえない人がいるんだと思う。
川上未映子さんの他作品
最後に
春のこわいものを見たことがある人、コロナ禍でまいっている人、インスタグラマーの募集にのこのこと出向いたことがある人にはおすすめだから、ぜひ読んでみてね。
それでは本日はこのへんで。
ご覧いただきありがとうございました。