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本と宴へようこそ。
どうも、宴です。
ヒーローっていうのはなかなか現れてくれないものです。おや、寝坊かな? と訝るほどに。でもね、ヒーローはもうすでにいたのです。ほら、ここに。
ということで、今回は鯨井あめさんの『アイアムマイヒーロー!』をご紹介させていただきます。
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アイアムマイヒーロー!/鯨井あめ
自分に何の期待もせず無気力に過ごす大学生、敷石和也。ある日駅のホームで、女性が線路に転落するのを目撃。右往左往しているうちに意識が遠のきー見知らぬ子どもの姿となって目覚める。目の前には、小学生時代の自分が…!不可解なタイムスリップの謎を追いながら、小学生時代の自分を客観的に見つめる和也。はたして、自分の身に起こった「奇跡」とどう向き合っていくのか。(「BOOK」データベースより)
絶望と希望 | 9/10点 |
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ドキドキ | 7/10点 |
感動 | 6/10点 |
切なさ | 8/10点 |
読みやすさ | 8/10点 |
総評 | 7/10点 |
書評・感想文
自分に絶望
自分はなんでこんな人間なのだろう…と得体の知れない憂鬱感に苛まれることがあります。たとえばの話ですが、道に落ちていた財布を見て一瞬喜んでしまう自分…ああ、絶望です。
いや、もちろん警察には届けますよ、やだなぁ。でも、僕は一時だろうと喜んでしまったのです。頭の片隅に「よし、パクってしまおう」があった自分。すぐに「届けよう」に至らなかった自分。そんな自分に絶望してしまうのです。
これがもし駅のホームで、今にも線路に飛び降りそうな人がいたとしたら、僕は迷いなくその人を助けられるのでしょうか。助けようとする人間なのでしょうか…
希望と切なさと苦しさ
本作『アイアムマイヒーロー』の主人公、敷石和也はそのような状況の中、小学生の頃へとタイムスリップしてしまいます。しかも、主人公のすぐ側にいる別人として。
もう一度新しく人生をやり直せるかもしれない…という希望、近づいてくる不可解な事件、そして、現代で飛び降りそうになった人は一体どうなっているのか。その先を知りたい欲に駆られ、ページをめくる手は好調です。次々とページをめくってしまいます。
また、和也にはそれはもう大きな共感を抱いてしまいます。自分がもしタイムスリップして、かつ別人として新しい人生を送ることが出来たのであれば...ちょっとだけ羨ましくなってしまいます。
でもです。物語が進むにつれ次第に切なさと苦しさに覆われていくことになります。大きな共感を抱いてしまったからこその、目から火が出るような切なさと苦しさです。
がっかりされないように
人間は、どんなに自分に絶望を感じていたとしても、やはり自分自身には期待をしてしまう生き物です。そんなに期待できるほどのポテンシャルがないとしてもです。
ならばせめて、過去の自分にがっかりされないように、期待されるように今を生きていこうではありませんか。そう決意させてくれる力が本作にはありました。うん、きっと大丈夫です。
心に残った言葉・名言
勝手に終点を作れたらいいのに、と思う。そうしたら、予定から大幅に外れたガタガタの轍をなかったことにして、また一から出発できるのに。
「アノマロカリスは、カンブリア紀に生息していた最大級の生物で、食物連鎖の頂点でした。名前の意味は"奇妙なエビ"です。」
「おまじないなんて無意味だ。わたしなら、そんな"大丈夫"いらない。わたしは、自分のための"大丈夫"が欲しい。安心のための"大丈夫"より、確信としての"大丈夫"が」
自分が知覚できる範囲のことを、人は世界と呼ぶ。そこに生きている顔見知りのことを、みんなと呼ぶ。ヒーローは分け隔てない。ヒーローの言う"世界"は本質的な"世界"で、ヒーローの言う"みんな"も本質的なものだ。大層な傲慢だ。
大人は子どもを守るもの、は、大人の世界の常識でしかない。守られる側の子どもは、大人の優しさをいらないお世話だと宣ってみせる。囲まれたら囲まれるほど反発する。子どもだけで解決しようとする。
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最後に
人生を最初からやり直したい人、タイムスリップしたことがある人、アノマロカリスが大好きな人にはおすすめだから、ぜひ読んでみてね。
それでは本日はこのへんで。
ご覧いただきありがとうございました。