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本と宴へようこそ。
どうも、宴です。
満月を見ると吠えたくなりませんか? え、違います違います、僕は狼男ではありません。そんなこと言ったら犬だって吠えてるのだから狼犬になってしまうではないですか。あら、ごめんなさい、僕は何を言ってるのでしょうね。
ということで、今回は馳星周さんの『雨降る森の犬』をご紹介させていただきます。
雨降る森の犬/馳星周
9歳で父を亡くした中学生の雨音は、新たに恋人を作った母親が嫌いだった。学校にも行かなくなり、バーニーズ・マウンテン・ドッグと立科で暮らす伯父・道夫のもとに身を寄せることに。隣に住む高校生・正樹とも仲が深まり、二人は登山の楽しみに目覚める。わだかまりを少しずつ癒やしていく二人のそばには常に溢れる自然や愛犬ワルテルの姿があった。犬の愛らしい姿が心に響く長編小説。(「BOOK」データベースより)
愛らしさ | 10/10点 |
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ドキドキ | 7/10点 |
感動 | 10/10点 |
切なさ | 8/10点 |
読みやすさ | 8/10点 |
総評 | 10/10点 |
書評・感想文
猫派揺らぐ問題
僕の夢はワンルームマンションで猫を100匹ぐらい投入しまして、その真ん中で寝そべり踏み荒らされることなのです。もちろん、猫はすぐに開放します。それぐらい狂気じみた猫への愛に溢れている僕にとって、本作は衝撃的でした。
過去作『犬と少年』でもそうだったのですが、馳星周さんは犬と人間の素敵な関係を描くのが、本当にお上手なのです。おかげで犬派に傾きかけるところでした。どうしてくれるのですか。
雨降る森のワルテル
僕の心を揺らす子猫ちゃん、いや、子犬ちゃんですね。その名は『ワルテル』。男尊女卑が玉に瑕のイカしたお犬様です。伯父である道夫のもとに身を寄せた雨音とペットとしてではなく、家族として共に時間を過ごしていきます。
ワルテルに完全に舐められている雨音ですが、次第に心を通わせていきます。その過程はペットと人の在り方ではなく、まるで人間同士のようであり、家族のようです。かけがえのない時間の煌びやかさに心が洗われてしまいます。
その煌びやかさは舞台が自然で溢れた場所であることも一因となっています。とくにタイトルにもなった雨降る森の描写は圧巻で、自然の凄みに慄き、問答無用で感動することしかできません。
今を生きる
ワルテルは少し変わっていましたが、人間にとって犬はペットであり、主従関係があります。けれど、その生き方には学ぶべきところがあり、尊敬すべきところがたくさんあるのです。そうワルテルが教えてくれました。
過去や未来に囚われず、今を生きる。なんて素敵な生き方なんでしょう。見習いたいワン! あ、すいません、取り乱してしまいましワン。
心に残った言葉・名言
犬の上に立つ人間は、ルールの守護者じゃなきゃだめなんだ
「そっか。よかったら勉強、教えてやるよ。理数系は得意なんだ。おれの部屋に来ればいい」
「雨は水だ。水は命の原点だ。だから、植物や虫や動物たちが喜ぶ。無数の命の歓喜が森をざわめかせるんだ」
「家族や友人が支えにはなってくれるが、最後はひとりだ。どの道を進むのかを決めるのはその人間自身なんだ」
動物が幸せなのは、今を生きているからだ。不幸な人間が多いのは、過去と未来に囚われて生きているからだ。
カルボナーラというのは炭火焼き職人風という意味だそうだ。一説ではその昔、ローマ近郊の炭火焼き職人は、炭を焼くために山にことる時、保存食としてのベーコンと乾麺のパスタ、そして雌鳥を連れていったのだという。
見返りを求めず、愛し、見守り、寄り添う。
シンプルなそれだけのことがどれだけ難しいかを知れば、他人に対する鬱憤や不満は薄らいでいく。
人間は迷い、惑う。でも、犬は真っ直ぐだ。これが得だとか損だとか、そんなことは思いもしない。純粋に生き、純粋に仲間を愛する。だから、間違わない。
馳星周さんの他作品
最後に
犬が好きな人、家族に問題を抱えている人、男尊女卑の犬にはおすすめだから、ぜひ読んでみてね。
それでは本日はこのへんで。
ご覧いただきありがとうございました。