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どうも、宴です。
世の中にはいろんな、きゃっ! があるけれど、本作の家族は、きゃっ! では済まされない深い悲しみと事情がありました。架空の犬を作り出してしまうほどの…
ということで、今回は寺地はるなさんの『架空の犬と嘘をつく猫』をご紹介させていただきます。
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架空の犬と嘘をつく猫/寺地はるな
空想の世界に生きる母、愛人の元に逃げる父、その全てに反発する姉、そして思い付きで動く適当な祖父と比較的まともな祖母。そんな家の長男として生まれた山吹は、幼い頃から皆に合わせて成長してきた。だけど大人になり彼らの“嘘”がほどかれたとき、本当の家族の姿が見えてきてー?破綻した嘘をつき続けた家族の、とある素敵な物語!(「BOOK」データベースより)
苦しさ | 10/10点 |
---|---|
ドキドキ | 7/10点 |
感動 |
10/10点 |
切なさ | 9/10点 |
読みやすさ | 9/10点 |
総評 | 9/10点 |
書評・感想文
嘘つきな猫たち
嘘は人を傷つけるものでもありますが、人を守るものでもあります。
本作『架空の犬と嘘をつく猫』は、嘘つきな猫たち、いや、ある家族の物語。
嘘というのは何か得をするためにつくことが多いけれど、今作の家族は苦しくて、逃げ出したくて嘘をつきました。悲しくて抱きしめたくなるような嘘を。
主人公、山吹
さすが、寺地はるなさん、と感服したのが、その嘘が明かされる場面とタイミング。主人公、山吹のキャラクターもあって、序盤は比較的明るめに映った物語が、次第に影を帯びていきます。
すると、それまで見えていた家族がまた少し違う形に見えてきて、物語の奥行がぐんと広がっていくのです。
また、本作は家族の物語でもありますが、山吹の人生譚でもあります。
彼が過ごしてきた人生、そして成長。そこに、家族の嘘が絡まると重いテーマではあるものの、すごく色鮮やかに輝いております。それほど長いページ数ではないのだけれど、大河ドラマを一話から最終話まで、ぶっ通しで見たような満足感です。
そして、思うのです。この物語の主人公が山吹でなかったならば、きっと全然違う物語になっていただろうなぁ、と。この内容に、この主人公。これはサンドイッチにはハムぐらいのベストマッチ。ベストマッチ主人公賞を彼に贈りたいところです。
架空の犬
最後に架空の犬システムについて少々お話を。
生きているとみんな誰しも辛い時があるはずです。そんな時、心の中に架空の犬がいれば、全てを救済してくれるのです。もちろん最後には、架空の犬も野生に返さなければいけませんが。でも、素敵なシステムです。
僕はこの架空の犬システムがノーベル賞をとることを願ってやみません。
心に残った言葉・名言
自分はお母さんの世界を守るために、これからもたくさんの嘘をつくだろうと思った。たとえ「嘘つき羽猫」と呼ばれても。
でもどこかの段階で飛べんようになった。そうやろ? それなら、飛べなくなった高さまで一回戻らないかんよ。違う?
たとえ実際にいやらしいことを考えていたとしても、お前いやらしいことを考えていただろうと見破られることはたいへん気まずく、耐えがたいことだ。
なぜ断らないか、というところまで考えたうえでなおそれを依頼するかな子はずるい。なんでも正直に喋り過ぎる人は残酷だ。
つまり、嘘とはリボンなのだ。
自分と話して「満たされた」と感じる人間がいることは、それはたぶん幸福なことなのだろう。
わからなくても、愛せなくても、その存在を認めることはできる。
寺地はるなさんの他作品
最後に
家族関係に悩んでいる人、現在進行形で嘘をついている人、架空の犬を飼っている人にはおすすめだから、ぜひ読んでみてね。
それでは本日はこのへんで。
ご覧いただきありがとうございました。