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本と宴へようこそ。
どうも、宴です。
ウミガメだったら産みに行きたい、夏だったら海に行きたい、をかけたつもりだったのだけれど、ウミガメ的には海に行きたいも正解だったから、微妙になってしまいました。それに対して、川上未映子さんの小説は本当に絶妙です。
ということで、今回は川上未映子さんの『夏物語』を紹介させていただきます。
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夏物語/川上未映子
大阪の下町で生まれ小説家を目指し上京した夏子。38歳の頃、自分の子どもに会いたいと思い始める。子どもを産むこと、持つことへの周囲の様々な声。そんな中、精子提供で生まれ、本当の父を探す逢沢と出会い心を寄せていく。生命の意味をめぐる真摯な問いを切ない詩情と泣き笑いの筆致で描く、全世界が認める至高の物語。(「BOOK」データベースより)
考える | 9/10点 |
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ドキドキ | 5/10点 |
感動 | 7/10点 |
切なさ | 8/10点 |
読みやすさ | 8/10点 |
総評 | 9/10点 |
書評・感想文
命
小説を読んでいて、ハッとするを越えて、天城も越えて、価値観が崩されることがよくあります。本作『夏物語』もその類。大切なことのはずなのに、本作のような考えを持っている人は意外と少ないのではないでしょうか。
本作のテーマはずばり命。と言えども、「やっぱり命は大切なものだよね」だけで終わる本作ではありません。
子どもの気持ち
思えば命というのは、すでに生まれている側でしか操作することができません。まあ、当たり前の話なのですが、そこに子どもの意思は含まれていないのです。
子どもが成長して、たとえば貧困に喘いだり、両親が別れてしまったり、何かしらの絶望のようなものを感じた時、子どもはこう思うかもしれません。生まれなければよかった、と。
身勝手な賭け
本作の主人公、夏子は、相手がいないのにも関わらず、子どもが欲しいと願います。それに対し、作中ではいろんな賛否が飛び交います。とくに、「出産は親たちの『身勝手な賭け』なのではないか」という言葉が衝撃的でした。つい、「そうだね、不幸な子どもになる可能性があるのであれば生まない方がいいのかもね」と納得しそうになった。
でも、それならば、石油王で常に両親ラブラブで教育方針も隙のない家庭に生まれればいいのか、というとそういうことでもないわけです。全く違うとも言い切れませんが…いや、違いますかね…?
答えはすぐには出ませんが、きっといろんな価値観を受け止めて、考え続けることが大事なのだと思います。本作は読み手に、そして、多くの人に「考えろ」と諭すバイブルのようなものかもしれません。
心に残った言葉・名言
たんにあそこから血がでるってことが、女になる、ってことになって、女としていのちを生む、とかでっかい気持ちになれるんはなんでやねん。そして、それがほんまにいいことやってそのまま思えるのは、なんでやろ。
強くて黒々した乳首が覇権をにぎることってないんかな、乳首の世界で。
「人ってさ、ずうっと自分やろ。生まれてからずっと自分やんか。そのことがしんどくなって、みんな酔うんかもしれんな」
ぜったいにものごとには、なんかほんまのことがあるって、みんなそう思うでしょ、でもな緑子、ほんまのことなんてな、ないこともあるんやで、なんもないこともあるんやで
わたしたち、言葉は通じても話が通じない世界に生きてるんです、みんな。
「自分にとって最高の存在で、それで最大の弱点。それが日に日に自分の外で大きくなって、事故とか病気で死ぬかもしれないことをいっしゅんでも考えると息もできないくらいに怖い。子どもって恐ろしい存在だよね」
「欲望には、理由はいらないから。たとえそれが人を傷つける行為であっても、欲望に理由はいらないものね。人を殺すことにも、生むことにも、べつに理由はいらないのかもしれないね」
「その、『生まれてみなければわからない』って賭けは、いったい誰のための賭けなの?」
「愛とか、意味とか、人は自分が信じたいことを信じるためなら、他人の痛みや苦しみなんて、いくらでもないことにできる」
川上未映子さんの他作品
最後に
将来子どもを産みたい人、これから産もうとしている人、普段の会話をスケッチブックで成立させている人にはおすすめだから、ぜひ読んでみてね。
それでは本日はこのへんで。
ご覧いただきありがとうございました。