ご覧いただきありがとうございます。
本と宴へようこそ。
どうも、宴です。
花ってキレイですよね。でも、同じぐらい人間もキレイで素敵だと思います。それはきっと忘れてしまうから、なのでしょうね…
ということで、今回は川村元気さんの『百花』をご紹介させていただきます。
<おすすめ記事>
百花/川村元気
「あなたは誰?」。徐々に息子の泉を忘れていく母と、母との思い出を蘇らせていく泉。ふたりで生きてきた親子には忘れることのできない“事件”があった。泉は思い出す。かつて「母を一度、失った」ことを。記憶が消えゆく中、泉は封印された過去に手を伸ばすー。現代に新たな光を投げかける、愛と記憶の物語。(「BOOK」データベースより)
愛 | 9/10点 |
---|---|
ドキドキ | 6/10点 |
感動 | 7/10点 |
切なさ | 8/10点 |
読みやすさ | 8/10点 |
総評 | 7/10点 |
書評・感想文
不安と恐怖と切なさ
人はいつ死ぬのか。それは記憶から消えてしまった時なのかもしれない。
本作『百花』は、痴呆症、アルツハイマーを扱った小説です。大切な人がアルツハイマーになってしまったら、その人が自分のことを忘れてしまったら。親と子の視点を交え、不安と恐怖、そして、言葉にできないような切なさが描かれています。
忘れること、忘れられること
母親のアルツハイマーの描写は衝撃的で、過去と現実が一本道となり錯乱していく様子は、悲しみに少々恐怖が入り混じります。高齢者の五人に一人が痴呆症になる時代がくるようですが、相当深刻な問題なのだと痛感しました。
また、母親を母親ではなく女性として書いたところも切なさを際立たせます。あの母親がアルツハイマー…息子である泉の心中が憚られます。
そして、心配し、後悔し、苛立ち、疲弊していく泉。忘れることもそうですが、忘れられてしまうことも、どれほど悲しくてやり切れないことかが、切々と伝わってきます。
人間は素敵
人間は忘れてしまう生き物です。けれども、それは仕方がないことだし、それでいいのかもしれない。そう母は言います。
忘れてしまう一瞬一瞬を美しく生きているからこそ、人間は素敵なのでしょうね。打ち上げられた瞬間に忘れてしまう花火のように。
心に残った言葉・名言
血が繋がっていない他人同士だからこそ補完し合えることも多い。
アルツハイマーという言葉が母と繋がらない。まるで遠い、寓話の世界にはびこる病のように、現実感なく聞こえた。
「もともと五十年も生きることができなかった人間が、長生きするようになってガン患者が出てきた。ガンが治せるようになり、さらに長生きができるようになったら、今度はアルツハイマーが増えた。どこまでいっても、人間はなにかと戦わなくてはならないんです」
だれかを好きになるってことは、まるでバカみたい。
確かに、人間の個性は欠けていることによって生まれているのかもしれない。赤の記憶がない画家が描く絵や、愛の記憶を失った小説家が紡ぐ物語はきっと魅力的なものになるのだろう。
「……どの花火が良かったのか、それが何色で、どんな形だったか。ぜんぶ忘れちゃう。だから、花火って素敵だなって思うの」
「あなたはきっと忘れるわ。みんないろいろなことを忘れていくのよ。だけどそれでいいと私は思う」
川村元気さんの他作品
最後に
母親が大好きな人、母親が一時期家出をしていたっていう人、母親との記憶を大切にしたい人にはおすすめだから、ぜひ読んでみてね。
それでは本日はこのへんで。
ご覧いただきありがとうございました。