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本と宴へようこそ。
どうも、宴です。
春って暖かいですよね。そして、老若男女、誰にでもやってきますよね。たとえいくつになっても、その人にとっての春は必ずやってくるものなのです。
ということで、今回は紗倉まなさんの『春、死なん』をご紹介させていただきます。
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春、死なん/紗倉まな
「春、死なん」妻を亡くして6年の70歳の富雄。理想的なはずの二世帯住宅での暮らしは孤独で、何かを埋めるようにひとり自室で自慰行為を繰り返す日々。そんな折、学生時代に一度だけ関係を持った女性と再会し…。「ははばなれ」母と夫と共に、早くに亡くなった父の墓参りに向かったコヨミ。専業主婦で子供もまだなく、何事にも一歩踏み出せない。久しぶりに実家に立ち寄ると、そこには母の恋人だという不審な男が…。人は恋い、性に焦がれるーいくら年を重ねても。揺れ惑う心と体を赤裸々に、愛をこめて描く鮮烈な小説集。(「BOOK」データベースより)
春らしさ | 8/10点 |
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ドキドキ | 6/10点 |
感動 | 7/10点 |
切なさ | 8/10点 |
読みやすさ | 8/10点 |
総評 | 9/10点 |
書評・感想文
変態でも生きている
紗倉まなさんといえばAV女優。世の中の男性がみんなお世話になっている聖母のような存在でございます。ありがたや。ところがなぜなのか、思い返すと僕は紗倉まなさんの作品を見たことがありません。男性失格なのでしょうか。
でも…本作を読んで彼女の作品を見てみたい! と思った僕は一周回ってど変態なのかもしれません。変態上等です。
真摯な姿勢
そんな変態紳士の僕が驚いたのは、本作、なんといっても真摯なのです。文学に対して、とても真摯だったのです。
勝手な想像が先立っていたので、大変申し訳ないのですが、てっきりキャピキャピしたスイーツ(笑)までいかないにしても、それに近しい作品かな…? と思っていたら全く違いました。本作には、そういう一方的な思い込みをボコボコにぶん殴ってくれるような物語が春の陽気のように広がっていたのです。
おじいちゃんはおじいちゃん
僕が幼い頃、おじいちゃんはおじいちゃんという生き物で、自分とは考え方も生き方も違う存在なのだととらえていました。が、そうではなかったのです。おじいちゃんも自分と同じ生き物であり、僕の延長線上にはおじいちゃんがいたのです。
おじいちゃんも、悲観することだってあるし、エロいことだって考えます。そして、自分がとても儚い存在なのだということを知っているのです。そういった哀愁が本作からは、たまらなく滲み出ています。
また、あえてなのかどうかはわかりませんが、紗倉まなさん自身とは年の離れたおじいちゃんを主人公に据えたのは、文学に意欲的で豊かなチャレンジ精神が窺えます。今後の作品も期待せずにはいられない一冊でした。
心に残った言葉・名言
海で泳いでいた魚が急に水槽に入れられたら、息苦しくなることもあるだろう。環境を変えたことが悪いなら、水質を変え、生きやすいように改善すればいい。
「お父さん、家が嫌になっちゃったんじゃないかな。帰ってくる場所があることのほうが、まるでしんどいみたい。その家を作ったのはお父さんなのにね」
「私、インポテンツの神に呪われているんだと思う」
トラウマ。拒絶。電話口での母の言葉を反芻し、その意味を確認する。自分が引き裂いたものは、母の身体だけではないとそのとき初めて知った。
紗倉まなさんの他作品
最後に
春を待っている人、春を愛する人、二世帯住宅に不満をもっている人にはおすすめだから、ぜひ読んでみてね。
それでは本日はこのへんで。
ご覧いただきありがとうございました。