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本と宴へようこそ。
どうも、宴です。
記憶ってかけがえないものですよね。でも、その記憶は永遠ではありません。人間はいつかガタがきてしまうものなのです。そんな母と息子の愛を描いた一冊がここにあります。
ということで、今回は辻堂ゆめさんの『十の輪をくぐる』をご紹介させていただきます。
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十の輪をくぐる/辻堂ゆめ
スミダスポーツで働く泰介は、認知症を患う80歳の母・万津子を自宅で介護しながら、妻と、バレーボール部でエースとして活躍する高校2年生の娘とともに暮らしている。あるとき、万津子がテレビのオリンピック特集を見て「私は…東洋の魔女」「泰介には、秘密」と呟いた。泰介は、九州から東京へ出てきた母の過去を何も知らないことに気づくー。(「BOOK」データベースより)
苦しさ | 10/10点 |
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ドキドキ | 7/10点 |
感動 | 9/10点 |
切なさ | 9/10点 |
読みやすさ | 8/10点 |
総評 | 8/10点 |
書評・感想文
2つの東京五輪
紆余曲折ありましたが、東京五輪は盛り上がりましたね。選手たちの熱い想いが、目見ている側にも伝わってきて感動の嵐でした。
ちなみに東京での開催はこれが2回目で、1回目はなんと1964年に行われていたのです。この度、その二つの五輪をくぐり抜けた壮大な母と子の物語を発見いたしました。
それが本作『十の輪をくぐる』です。認知症で次第に記憶を失っていく母と、自身に問題を抱えた息子の物語現代と過去の違いや移り変わりが心に沁みて、切なくもじんわりと温かな気持ちにさせてくれます。
母と息子
現代の息子パートと過去の母パートが交互に展開されていくのですが、どちらも親と子の愛の形が描かれていきます。
それは一方的かもしれませんし、ひょっとすると歪んでいるのかもしれません。愛ほど歪んだ呪いはない、と五条先生も言っておられましたから。でも、愛は愛であり、愛に変わりはありません。
母の愛は壮絶なものでした。現代の息子も大概なのですが、あまりの勝手気ままぶりにぶん殴って天ぷらにして揚げたい気持ちに駆られてしまいます。
そんな息子への愛と衝撃の事実に、母という存在の偉大さを思い知らされました。どうやら子どもは親を成長させる生き物みたいです。
そして、それは現代の息子にも言えることでもありました。序盤の勝手気ままな息子から、まさかこんな心打たれる展開になるなんて思ってもみませんでした。お前も成長したな…という親のような優しさ気持ちになります。
東洋の魔女
「私は…東洋の魔女」という母の口から出た謎の言葉からはじまった本作。その言葉の謎にワクワクし、1964年の日本の状況にムカムカし、親と子の愛に胸を打たれる、と盛りだくさんの内容になっております。伊達に十の輪をくぐってきただけはあります。
最近、愛が欲しい、愛が足りないと感じている方は本作で補充していってください。満タンになることでしょう。
心に残った言葉・名言
あんた、人の嫁さんになったんやろ。そんなら、覚悟ばせんといかん。家に帰りたかなんて簡単に言うたらでけんよ。結婚ちゅうのはそげんかもんばい。
『この世の中には、普通の人もいないし、異常な人もいない。どんな脳の特性も、人間社会にとって必要なものだからこそ、今の今までDNAが残ってるんだよ』
自分にとっての当たり前が、他人にとってはそうでなかったということを認識しただけで、こんなにも世界が違って見えてくるものなのか。
子どもには、物心つく前の出来事を忘れ去る権利がある。
人には、得意不得意が必ずあるから。打ち消し合ってゼロくらいになっていれば、それでいいの。
辻堂ゆめさんの他作品
最後に
前回の東京五輪の日本を垣間見たい人、母親の人、適職診断で『適職はありません。どこに行っても人とぶつかるでしょう』と診断された人にはおすすめなので、ぜひ読んでみてね!
それでは本日はこのへんで。
ご覧いただきありがとうございました。